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第12話

 新しい生活を始めるにあたって、あのアパートから荷物を移さなければならない。  二人は佑里斗の家に向かい、すぐに必要な物を琉生の家に移動させた。  とはいっても元々持ち物が少ないので、車でやって来たのだが荷室はまだまだガラ空きだ。 「荷物、本当にこれだけ?」 「はい。」 「……服も?」 「あ……お金無くて……。本当にこれだけです。」  琉生は失礼だと思いながらも内心驚いていた。  だって服が極端に少ない。  十着にも満たないそれと、大学で使う教科書やノート、それからたまに読むという本を数冊。  食器や調理用具も小さなダンボールが一箱あれば全て納まって。 「引越し祝いに何か買いに行こう」 「え……お金が……」 「お祝いだって言ってんだろ。」 「そんなの申し訳ないです」 「……じゃあ俺の服買いに行くから付き合って」  琉生は車を運転してショッピングモールに向かった。  佑里斗はそういったところに来るのは初めてらしく、物珍しそうに辺りを見回している。 「俺はこういう服が好きなんだけど、お前はどんなのが好き?」 「んー……シンプルなのが好きです。あと、素材が柔らかいのとか……。まあもうこの服は洗いすぎて柔らかくないんですけどね」 「あー……。」  苦笑する佑里斗に、琉生は上手く返すことが出来ずに同じような表情をしてしまう。  それに気づいたのか、佑里斗は視線を彷徨わせたあと、近くにあった服に触れた。 「久しぶりに服見ると、ちょっと楽しいですね。」 「もっと見て回るか」 「あ、いや、大丈夫です。」  そんなこんなで琉生は佑里斗の好みを自然と聞き出した。  この場で買ってしまうと彼が気負ってしまうのはわかっている。  折角楽しんでくれているのにそうなってしまっては勿体ないので、後日何着か買いに来て適当な理由をつけて渡そうと、それから少しの間佑里斗の表情を見ながら好きそうなものに目星をつけた。  ◇◇◇ 「先輩、本当に何も買わないの?」 「うん。なんか、あんまり欲しいと思わなかった。」 「そっかぁ。」 そうして服を見終えると、今度はスーパーに行くことに。 今日の晩飯は何にしようとカゴを持ってプラプラ見て回る。 「お前は何食べたい?」 「え……あ、いや、俺のことは気にしないでください。」 「いや、気になるよ。鍋でもいい? 辛いの食べれる?」 「……食べれる」 「じゃあキムチ鍋な。」  琉生はなんとか佑里斗にきちんとした食事をとって欲しかった。  鍋なら野菜も肉も食べれるし……と食材を入れていく。  会計をする頃にはカゴには沢山の食材が入っていて、佑里斗は内心『二人で食べるんだよね……?』と心配になっていた。

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