16 / 132
第16話
大学に着いた佑里斗は講義室に行き、後ろの端の席に座るとふぅ、と小さく息を吐く。
確かにいつもより体が重だるい気がする。
けれど休んでいては成績が下がり特待生の権利を失ってしまう可能性があって、それが何より怖いので倒れるギリギリまでは頑張りたい。
「──おはよ!」
「あ、おはよう」
ぼんやり前を見ていると二つ隣の席に友達が座った。
明るくて話しやすい彼──奥野 智 は、入学した当初から仲良くしてくれている。
「今日、体調悪い?」
「え?」
「顔が白い」
「ぁ、いや、大丈夫だよ」
曖昧に笑えば智がジーッと見つめてくる。
居心地悪くて視線を逸らすと、勢いよく肩を叩かれビクッと体が跳ねた。
「なんかあれば言って」
「あ、ありがとう」
「いいえ〜。俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
「うん」
智が席を立ってから、サッとスマホを取りだしてカメラを起動し自分の顔を見た。
まじまじと自分の顔を見ることはないのでいつもとの違いがあまり分からない。
けれどそんなにも心配をかけるほど顔色が悪く見えるのかと、ペチペチ頬を叩く。
「……そこまでしんどいわけじゃないんだけどな」
先輩にも心配をかけてしまっているし、今日はいつもより慎重に行動しようと一人頷く。
また倒れてしまっては困るし、きっと先輩に怒られてしまうので。
早く体調が良くなってアルバイトを再開したい。
けれど働くなら次も倉庫作業くらいしかないよなぁ……と夜中に働きに出ていた日々を思い出して溜息を吐く。
何かいい仕事は無いものか。
スマホを使い調べようとしたけれど、そのタイミングで講義開始を知らせる音楽が鳴る。
智が「セーフ!」と言いながら滑り込むように席に戻ってきた。
ともだちにシェアしよう!