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第57話

 琉生は扉のすぐ向こうで話をする二人の会話を聞いて眉を寄せた。  それは佑里斗の事を値踏みしているような内容で、本人にはあまり聞かせたくないと思い咄嗟に耳を塞いだが正解だったようだ。 「美澄先輩ってアルファなんだろ?」 「らしいな。噂で聞いたけど」 「なら、高津はオメガだったりして」 「……は?」 「だってさ、人付き合いもあんまり良くないし、その割にはアルファの先輩と一緒に暮らしてるし」  琉生は「はぁ……」とつい溜息を吐く。  いつの間にか二人で一緒に暮らしていることがバレていたらしい。  佑里斗が不安そうに顔を上げたので、小さく笑って『大丈夫』と声に出さず口を動かして伝えた。 「人付き合い云々は別に関係ないだろ」 「あるって。今までオメガだから友達がいなくて、関わり方が分からないとかさ」 「……なるほど」  それはあながち間違いでは無いかもしれないが、ただそれが佑里斗のことでなくとも、誰か特定の人を探るようなそれは気持ちよくない。  琉生は思い付いて「ん゛んっ」と咳払いをしあ。  そうすれば小さく「やべっ、」と声が聞こえたあとトイレから出ていく足音がして、琉生はようやく佑里斗の耳から手を離す。 「もう行った……?」 「うん」  困ったように眉を八の字にする佑里斗を安心させるために頭をそっと撫でる。  困惑しながらそれを受け入れた彼は、個室からそろっと出ると手を洗いながら溜息を吐いた。 「先輩にまで変な事を聞かせてごめんなさい」 「お前が悪いわけじゃない」  琉生はそう言うが、佑里斗の表情は全く晴れなくて。  次の講義まで残り二分。それに気づいた彼は顔色を青くして「また!お昼に!」と言い走っていく。  段々と小さくなる背中を見つめる。  どうにかしてあげたいのに、どうしてあげればいいのかわからず、琉生は胸をモヤモヤさせながら講義室に向かった。

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