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第58話

 重たい気持ちのまま講義室にチャイムが鳴るギリギリで辿り着いた佑里斗は、乱れた呼吸を整えて最後に深く息を吐く。  少しだけ聞こえていた智と只隈の会話。途中から琉生に耳を塞がれていたので聞こえなかったが、きっと良くないことを言われていたんだろうと切ない気持ちになる。  けれどこれまで性別のことがあって色んなところで陰口や悪口を言われてきたので、これはまだマシな方だと自分に言い聞かせ、悲しくはないんだと自分に嘘をついた。 ■  午前の講義が終わり、佑里斗はすぐ琉生にメッセージを送った。  どうやら彼は正門で待ってくれているらしく、走ってそこに向かえば、佑里斗に気づいた彼は柔らかい表情で手を振った。 「お待たせしました!」 「ううん。そんなに待ってない」  琉生に連れられて前も二人で行ったことのあるカフェに向かう。  その道中で佑里斗はトイレでのことを思い出して、今更少し情けなくなった。  一緒に住んでいることがバレただけで不安になって彼を頼るだなんて。 「先輩」 「ん?」  お店について席に座る。  チラリと彼を見てから、静かに俯いた。 「さっき、恥ずかしいところばかり見せてしまってすみません」 「……恥ずかしいところ?」 「うん。ちょっとの事なのに不安になっちゃって」 「別に恥ずかしいなんてことないだろ」  彼はそう言って苦笑し、考えるように宙を見てぼんやりしている。  何を思い耽っているのか、真剣な表情。  もしかして彼自身も何か言われたのだろうか。 「先輩も誰かに何か言われた……? あ、もしかしてトイレでのこと、俺は途中から何も聞いてないんだけど、その時に何か言ってたの……?」 「え、ぁー……」 「……」  言いにくそうな彼の様子に、やはり何かしら巻き込んで迷惑をかけてしまっているんだと、膝に置いていた手をギュッと握る。

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