60 / 132

第60話

「オメガって別に居なくても問題無いしなぁ。アルファとベータだけになれば、今よりもいい社会が築けそうだし」  佑里斗は何も言わなかった。  ここで反論しても何にもならないと思ったからだ。  ケラケラ笑う彼ら。けれど智だけは「やめとけ」と一言言って、只隈の隣から佑里斗の隣の席に移動してくる。 「さっきはごめん」 「え……っと、何が?」 「こっちを優先したっていいじゃんって言ったこと」 「あ、ううん。大丈夫」  まさか謝られるとは思っていなかったので、佑里斗は咄嗟にそう言ったのだが、不安になったのは事実。どうして彼がそう言ったのかは少しばかり疑問だった。 「あの……」 「……何であんなこと言ったか気になった?」 「うん。智は友達が沢山いるし、俺がいてもいなくても同じだと思うし……」 「同じって……。俺にとっては、友達の中で一緒にいて一番楽に過ごせるのはお前だよ」 「え」  まさかの彼の告白に佑里斗は瞠目する。  友達が一人もいなかったこれまでの人生。それなのに誰かにそんなふうに思われるなんて。 「だから嫉妬した。一緒に住んでるってのがあるから当たり前なんだけど、お前は美澄先輩の方が気が合うんだろうし」 「ぁ、あの、」 「……何? 子供だなって思ったんだろ」 「いや……あの、嬉しい……そんなふうに思えてもらって……」  そういえば智はトイレにいた時も、只隈の言葉からどこか庇ってくれていた気もして、良い友達を持ったと彼に微笑みかける。 「ありがとう。俺にとっても智は話しやすい友達だと思う」 「思うってなんだよ。そこはハッキリ決めろよ!」  ケラケラ笑う彼に背中を叩かれる。  佑里斗は只隈達の声なんて無視をして、智を見ながら安心した。  例えばオメガだと周りにバレたとしても、きっと智は差別することなく、友人としてそばに居てくれるだろうと思って。

ともだちにシェアしよう!