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第62話

 彼がお風呂に入っている間に頭をフル回転させ、急いで課題を終えた佑里斗は、予習復習を諦めて勉強道具を片付けた。  ドライヤーをかける音がするので、もう少しすれば彼はリビングに戻ってくる。  お茶を入れて一息ついていると、そのうち琉生が戻ってきて同じようにお茶を入れ、佑里斗の向かい側に腰を下ろす。 「昼からは何も無かった?」 「あ……うん。まあ、ちょっと……」 「何? 何か言われた?」  琉生の表情が険しくなる。  佑里斗は苦笑しながら只隈が言っていた言葉を口にして、余計に悲しくなった。 「……でも、同じような事を考えている人はきっと沢山いるよね」 「そんなこと……」 「あるよ。だから俺は性別を隠してるんだもの」  オメガの評価がそうでなければ、性別を隠す必要もなくなる。 「先輩は……? トイレでのこと、何を聞いたの」 「……」 「言えないこと?」 「……お前の性別のこと。完全にバレたわけじゃない。憶測で話してただけで」  なるほど、と佑里斗は一人で納得した。  だから只隈は自分の前で差別発言をしたのかと。  もしもオメガなら、酷く傷ついた顔をするか何かしらのリアクションをするだろうと思っていたのだろう。  なのであの時ほとんど無視のように何の反応もしなかったのは正解だった。 「じゃあもう、噂を流されるのも時間の問題かも」 「……なあ佑里斗」 「うん。何?」  自虐気味に笑う佑里斗に、琉生は心が痛んだ。  そんなふうに笑ってほしくない。  傷ついてほしくなくて、けれどどうすればいいのかすぐに解決もできない。 「気にするなって言葉は、無責任だと思う。でも、今はまだ解決策も見つけられてなくて……」 「あ……ううん。大丈夫です。今までもそうだったから、大丈夫」  自らに言い聞かせるようにうんうんと頷いた佑里斗は、顔を上げてほんのり口角を上げる。 「智は差別しなさそうだし、バレたって友達がいなくなるわけじゃないって考えておきます」 「……」 「それに何より、俺には先輩がいるし。だから大丈夫」  そう言った佑里斗は突然立ち上がると、琉生のすぐ傍に寄る。 「でもちょっと、甘えたい気分なので抱きしめてください」 「うん」 「それから……今日も一緒に寝ませんか?」 「寝る」  琉生は佑里斗が一人で泣いてしまわないように、できる限りの時間を一緒に過ごそうと、自分よりずっと細い体をギュッと抱きしめた。

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