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第64話

 佑里斗は体から熱が奪われていくような感覚に襲われ、上手く口を動かせなかった。  智になら大丈夫かもと思っていたところがあったので、今彼から負の感情を含んだ目を向けられて心臓が嫌に激しく動き出す。 「え、なあ、佑里斗」 「っ、」 「マジ? 本当にお前オメガだったの?」  キーンと耳鳴りがする。  はくはく口を開閉するしかできずに、佑里斗は膝の上で拳を握った。 「──佑里斗」  そんな時、一番安心できる声がすぐ傍で聞こえ、温かい手が肩に回される。  タイミングよく現れた彼──琉生は、柔らかい表情をしてけれど静かに怒っているのがわかった。 「大丈夫?」 「……せ、んぱい」 「外行くか。立てる?」  そう問われたけれど、上手く体が動かなくて為す術なくただ俯く。  立てないのだとわかると、無理に移動する訳でもなく優しく佑里斗の頭を撫でた琉生は、スッと智を見ると眉間に皺を寄せる。 「……お前、デリカシーの欠片もねぇな。性別の話なんてこんな人の多いところでするものでも無いし、そもそも噂が気になるからって本人に聞いたりしないだろ」 「……でも気にはなるだろ」 「へえ? 気になったら何でも聞いていいんだ?」  琉生はその容姿の良さから大学では一目置かれる存在である。  なので食堂に居た学生の視線はチラチラと琉生に向けられていた。 「けど、実際に性別を聞かれて困るのはオメガだけだろ」 「なんだその決めつけ」  琉生は智の言い分に呆れて溜息を吐く。  ようやく力が入って佑里斗が立ち上がろうとすると、それを支えるように琉生の手が腰に回る。 「決めつけじゃない! だから佑里斗は困ってたし、あんたも……アルファだからオメガの佑里斗を庇うんだろ!」  智の声は段々と大きくなって、そのまま彼はハッキリと佑里斗の性別を口にした。  食堂に響いた声に、佑里斗はギュッと琉生の服の裾を掴む。  

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