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第65話

「先輩、いい。大丈夫」  佑里斗は琉生にだけ聞こえる声量でそう伝え、置いていたバッグを肩にかける。  まだ残っているご飯は申し訳ないけれど、もう食べられそうにない。   「……帰る?」 「まだ講義残ってるから、帰れない」 「……わかった」  本当はこんな状態の佑里斗を一人にしたくないが、彼の意思を尊重するべきだと反対の言葉を飲み込んだ。  智がジッと佑里斗を見ている。  佑里斗は『もういいか』と半ば諦めの表情で彼を見ると、小さく口角を上げた。 「俺をオメガだって、こんなに人が多いところで言えて満足?」 「……」  智は何も答えることなく、静かに視線を逸らす。  『せっかく友達ができたと思ったのに』と悲しいのか怒りたいのか、そんな気持ちを抱え琉生と食堂を後にした。 ■  廊下に出た二人。佑里斗は泣き出しそうで唇を噛んで耐えていた。 「……ごめん、腹が立って言い返した」 「ううん。俺の方こそごめんなさい」  できることならこのまま家に帰ってしまいたいが、ここで帰ってしまっては今後大学に行けなくなってしまうような気がして踏ん張らなくてはと深く深呼吸をする。 「じゃあ、えっと……行ってきます」 「……何かあればすぐに連絡して」 「うん」 「……講義が終わったら、今日は一緒に帰ろう」  優しい彼は、いつだって佑里斗を支えようとしてくれる。  ずっとオメガだとバレることが嫌で一緒に登下校するのは避けていた佑里斗だが、もうバレたと同じだしいいかと、首を縦に振った。   「じゃあ、終わったら教えて」 「……先輩は? 忙しいんじゃないの?」 「なんとでもなる」  琉生はそう言って佑里斗を安心させるように笑った。

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