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第66話

 一人講義室に向かった佑里斗は、部屋の隅っこで目立たないように静かに過ごした。  噂のせいで話しかけてくる人はいない。チラチラと視線を受けるし、時折差別的な言葉が聞こえてもきたけれど、これまでの人生でそんなことはいくつもあったので、今更傷つくことは無い。  次の講義は智も只隈もその取り巻きも受けていたはず。  彼らが来ても極力存在感を消していれば大丈夫だと言い聞かせ、少しばかり不安と緊張でうるさい心臓を落ち着かせる。  講義が始まるギリギリにやってきた彼らは、いつもとは違い佑里斗の傍に座ることはなかった。  それには佑里斗もホッとした。  これ以上関わらないでくれるのだと思うと、それはそれで有難い。  ここ最近不安で講義中も気が散ってしまうことが多々あったので、むしろ一人になった今の方が勉強に集中できていい。  そう思っているうちに午後一発目の講義を終えて、また移動をしようと荷物を片づける。 「──オメガが一緒の空間にいるってのが嫌だよなあ」  只隈の大きな声が聞こえ、佑里斗は片付けていた手を止めた。  ケラケラと笑う声が煩わしいけれど、『気にしない』と再び動き始めた佑里斗は、只隈の方を一瞥して立ち上がる。  一瞬、智と目が合って彼は『ぁ、』と何か言いたげな表情を見せたけれど、佑里斗は構うことなくその場所から離れた。

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