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第71話
朝まで一緒に眠った二人。
佑里斗は『行きたくない』と思いながら準備をして、琉生が一緒に行こうと言うのを断わり、いつも通りの時間に一人で家を出た。
足取りが重たいがここで引き返すのも悔しい。何度も『帰りたい』と足が止まったが、その度に踏ん張って一歩ずつ進んだ。
ようやく着いた大学で、講義室に向かおうとするのだが不安で胸がソワソワして仕方がない。
そんな時後ろから聞きなれた賑やかな声が聞こえてきて、一気に体にギュッと力が入った。
智と只隈の声だ。ドッドッと心臓がうるさい。
「──あ、オメガちゃんじゃん」
背後から只隈がそう言ってクスクス笑っている。
暴力を振るわれないだけマシだと俯いて逃げるように足を動かせば「おいおい、待てよ」と肩を掴まれる。
「挨拶くらいしろって、オメガちゃん」
「……」
「は? 無視すんの?」
肩を掴まれる力が強くなる。
痛くて振り払おうとすれば、余計に力が込められた。
「やめて」
「やめてだって。はは」
何が楽しいのか只隈は笑っている。
彼の後ろにいる智は何も言わない。
本格的に肩が痛んで辛くなり「痛い」と伝えた時「高津君!」と誰かに名前を呼ばれて顔を上げた。
「あ、えっと……松井先輩?」
「うん、おはよ。てか君たち何してんの? 高津君が痛いって言ってんじゃん、聞こえなかった?」
声をかけてきたのは松井だった。
佑里斗は前に少しだけ話したことがある。
確か琉生の友達だったはず、と考えている間に肩から只隈の手が離れていた。
「第二の性別のことを他人がとやかく言うのはマナー違反だ。義務教育で習わなかった? それか両親から」
「……誰スか、あんた」
「高津君の友達」
松井に突然肩を組まれた佑里斗はギョッとしたが、助けてくれたことに変わりはないし、琉生の友達でもあるので大人しくする。
「いくら高津君の頭や性格や見た目が良いからって情けないかまってちゃんアピールすんなよ」
明るいトーンで話していた松井だけれど、突然真面目な様子でそう言って彼等を見渡し、最後にニコッと笑う。
「もっと賢い人間になった方がいいぞ。お前らが思っている以上に、周りはお前らを見てるから」
松井は佑里斗と肩を組んだまま廊下を歩いてその場を後にする。
佑里斗は色々と疑問に思うことがあったけれど、黙って彼について行くことにした。
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