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第72話
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「め〜〜っちゃくちゃにごめん!」
「え……えぇ?」
少し歩いた先、誰もいない場所まで来ると松井は佑里斗を解放し深く頭を下げて謝ってきた。
焦りながら頭を上げてもらう。
「あの、助かりました。ありがとうございます!」
「なんか腹立っちゃって、出しゃばっちゃった……やったわ〜……」
「え、あの、嬉しかったです。庇ってくれて」
「庇うって言うか……いやあれは誰だって怒っておかしくない案件だし」
メソメソし始めた松井は、一人唸り始めたかと思うと突然顔を上げて佑里斗の肩に触れる。
「痛かった? 大丈夫?」
「あ、大丈夫です」
「よかった……」
ホッとした様子の彼は、ピコンと何かを閃いたのかそのまま佑里斗の肩をガシッと掴む。
「今から講義あるんだろ? 今日は空きコマあったりする? 午後からの講義は?」
「空きコマは無いです。午後も講義はありますけど……?」
「よし、じゃあ一緒に飯食おうぜ。美澄も誘っとく」
「えっと……はい」
「じゃあ、昼休み食堂な」
松井はそう言ってパタパタ走っていく。
ぽつねんと残された佑里斗は、松井をすごくエネルギーのある優しい人だと思いながら講義室に向かった。
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十時半前に大学に着いた琉生が構内を歩いていると「あー!」とうるさい声と一緒に松井が走ってきた。
既視感……と彼を見ていると、「今日の朝一のことなんだけどさ」といきなり話し始める。
「高津君が絡まれてて、俺めちゃくちゃ出しゃばっちまったの……。なんか雰囲気最悪で、ちょっと話してるの聞こえたけどもうクソガキ過ぎてムカついちゃって……」
「絡まれてた?」
「うん。もう最悪。高津君のことを平気で『オメガちゃん』って呼んでた」
琉生は腹が立つのはもちろんだが、それよりも佑里斗が心配でひとまず電話をしようかとスマホを取り出す。
「それでさ、一応注意はして高津君とクソガキ達とを引き離したんだけど、とりあえず高津君は大丈夫そうで」
「……そうか」
電話をしようとした手を止めて、胸を撫で下ろす。
「でもやっぱり大学には居づらいだろ。だから昼飯誘ったんだ。美澄も一緒に来てよ」
「は、昼飯誘ったの」
「え? うん。だって一人で食べるの寂しいし、一人でいるとちょっかい掛けられそうだから、俺達が近くにいてやった方が安心じゃない?」
琉生は目の前にいる松井がこれまでとは別人のように見えた。
騒がしいだけだと思っていた彼の新しい一面を知ったからだ。
「ていうかお前なんでそんな早くから大学にいたんだよ。必修科目は無いはずだろ?」
「……聞く?」
「うん」
「ちょーっと恥ずかしいから秘密にしてたけど、実は去年落とした単位、再履修してんのよ。だから今日は本来なら今くらいに来ればいいんけどさ、俺くらいになると朝から来なくちゃいけないんだな、これが」
なぜか誇らしそうな彼に、琉生は一言「そうか」とだけ返した。
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