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第111話

「琉生の方は? お母さんと電話してたってお手伝いのことでしょ?」 「うん。俺は明日の夕方に家出る。多分帰ってくるのは日跨ぐくらいかな。先に寝てて。待ってなくていいから」  苦笑混じりにそう言った彼に、佑里斗は少し心配になった。 「そんなに遅くなるの……? 帰り危なくない?」 「ううん、大丈夫。多分送ってくれると思うし」 「そうなの? ならそうするね」 「ん」  琉生はほんのり微笑むと立ち上がってググッと伸びをする。そして脱力するとくるり、佑里斗を振り返った。 「バイト先の人、良い感じの人だった?」 「面接してくれた人は穏やかそうで良い人だったよ」 「よかった。性別のこと何も言われなかっただろ?」 「あ、うん」  琉生は満足そうに口角を上げた。 「な? 何でも素直に言えばいいもんじゃないから」  いつも傍に居て支えてくれる彼だけれど、佑里斗はその言葉に少し引っ掛かりを覚えた。 「別に性別は……というか、オメガは悪いことじゃないもん」 「あー……、ごめん。言い方悪かった」  唇を歪めて彼から視線を逸らす。 「……」 「ごめん。佑里斗が傷つかないようにするには隠すのが一番いいんだろうと思って」  確かに、差別が多い世の中では、オメガ性は隠すのが一番だ。  自分だってバレて虐められるのが嫌だったから大学ではずっと隠していたわけだし。  ただそれを自分以外の誰かに言われると釈然としない。  彼に言葉を伝えて直ぐに、自分のあまのじゃくな性格に『ゔ……』となった。 「佑里斗……?」 「……俺の方こそごめんね。本当嫌な性格してる……」 「え、何? どこが?」  溜息を吐くと琉生は顔を顰める。 「俺はお前の全部が好き」 「……おぉ……」  そして突然のそんな告白に、佑里斗は「ありがとう」とたじたじになりながら返事をした。

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