117 / 132
第117話
「大丈夫? 薬、体が辛くなる前に飲む?」
薬──抑制剤を飲むということは、その間発情期がマシになる。
フェロモンが外に漏れる量も少なくなるし、発情期の熱自体も軽くなるのだ。
ただ佑里斗は薬が効きにくい体質だった。
まあ飲まないよりかは随分マシで、理性が飛ぶなんてことにはならない。
そして薬を飲まなければ、きっと何も分からなくなって、本能のまま、必死で彼を求めるようになってしまうだろう。
マ、とどのつまり薬を飲まなければ番になる可能性は限りなく高くなる。
「……番とか、いいの……?」
彼がそれに気づいているのかどうかがわからず、佑里斗は勇気を出してそう聞いた。
そうすれば彼は苦笑して、優しく佑里斗の頭を撫でる。
「俺はなりたいけど、佑里斗が『良いよ』って言ってくれるまで我慢する」
佑里斗はそんな彼の言動に胸が締め付けられるような気持ちになって、頭を撫でてくれていた彼の手を取りキュッと握った。
「あのね、俺は琉生の事が好きだよ」
「うん。知ってる。だから待てる」
そう言いながらもどこか寂しげな表情をする彼に佑里斗は決意をした。
「飲まない」
「は?」
「薬、飲まない」
琉生の手を握る手に自然と力がこもる。
過去のことで不安はどうしても拭いきれないけれど、それでもこの人となら、もうあんな思いはしなくて済むはず。
「俺のこと、番にしてくれませんか」
「!」
琉生は瞠目したまま、動かない。
段々と寂しくなってきてしまって、一度手を離そうとすると、強い力で握られクイッと彼の方に引き寄せられる。
「お、俺のセリフなんだけど、」
「え……」
「俺を、番に選んで」
少し興奮した様子の彼に、佑里斗は柔く微笑むとそれに大きく頷く。
至近距離で見つめ合うと、どちらともなく唇を重ねて抱き締めあった。
ともだちにシェアしよう!