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第7話

花枝は、憔悴(しょうすい)しきっていた。 出会った頃の面影(おもかげ)はなく、見ていると(あわ)れに思えてくるほどやつれている。 この時の俺は、詳細を聞いたら、花枝を俺から解放してやろうと思っていた。 「花枝、あの男を好いておるのか?なら二人で…」 「あっ、あなたがっ、怖いからです…っ!」 俺の話を遮って、花枝がいきなり俯いていた顔を上げて叫んだ。 「怖い?」 「そうっ、そうですっ!あなたは、息子が死んだ原因が、太陽を浴びたからだと言いました。だけど、あんな少しの時間…それも木陰で遊んでいただけですよ?水も飲ませていました。そんな状況で、まさか死んでしまうなんて思いもしません…っ。でもあの時のあなたは、私と弟のせいだ!と鬼のような顔で酷く責めて…とても恐ろしかった。…でも、部屋から出してしまった私に非があるのは確かです…。だから、毎日毎日あの子に謝って…。死んでしまいたかったけど、あなたが止めるからそれも叶わず…。何年も沈んでいた私に、弥太郎はとても親切にしてくれたのです。彼の親切に救われたのです」 「…それで?」 「…それに、一番怖いと思ったのは、あなたが年を取らないこと…っ!私もあなたも二十半ばを過ぎて、私は一気に老けて顔に皺が出てきたというのに…。あなたはっ、出会った頃のままではありませんかっ!なぜっ?なぜあなたは年を取らないのです?全く変化のないあなたが、本当に人なのかと怖くなったのです…。もう、あなたの傍にはいられません。どうぞ、あなたの手で成敗なさって下さい…」 最後には嗚咽を洩らすと、花枝はその場に突っ伏してしまった。 俺は、訳がわからなかった。 花枝が何を言ってるのか、理解出来なかった。 確かに、よく若く見られはする。 見た目は二十歳だと言われ、体力も十代の頃と変わらず全く落ちない。 花枝や周りの人達が、年々老いているのも見てわかっていた。 今、花枝にはっきりと指摘されて首を傾げる。 俺は、普通の人とは違うのだろうか? だとしたら、澄晴に原因があるに違いない。 母親の琴乃は、間違いなく普通の人間だった。 一方澄晴は、どこからともなく琴乃の前に現れた。自分の名は名乗ったけれど、素性は詳しくは語らなかった。 もしかして俺が若く見えるのも、澄晴によるものだろう。 そういえば、澄晴も年齢の割に、若い姿をしていたように思う。 そこまで考えて、俺はそっと立ち上がる。 「そんなに怖がらせてるとは知らなかった。すまない。弥太郎とやらと、どこへなりとも行くがいい。末永く、穏やかに過ごせ」 部屋を出る間際にそう声をかけて、障子をピシリと閉めた。

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