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第17話

ーーりつ…腹を殴られても泣かなかったと言ってたのに…もう限界か?身体は動かせるか?おまえは足が早い。何とか(すき)を見て逃げろ。 そう目で合図するけど、りつには伝わらない。 ーーこんな時、念じて言葉を送れたらいいのに。りつ頼む。逃げてくれっ! 俺の肌を撫で回す大男に(あらが)いながら、目で訴え続ける。 その間にも、りつを囲んだ男共が、りつの白い肌を露わにしていく。 ーーくそっ!りつに触るな!汚らしい手で、りつを汚すな! 俺はりつと目が合った瞬間、上半身を起こして大声で叫んだ。 「逃げろっ!」 りつの身体が、ビクンと跳ねる。 しかし群がる男共の手が、りつの動きを封じてしまう。 「おいおまえらっ!早くガキに突っ込めよっ。気が散ってこっちがすすまねぇっ」 「ちっ、しょうがねぇ。多少傷つけるが強引にやるぞ」 「おいおい、鬼畜だな」 男共が、下履きをずり下げながら下品に笑い合う。 「下衆どもめが…!」 俺は怒りで身体中が熱くなり、肩の痛みも忘れて大男を跳ね除けた。 「どけっ!りつに触れるなっ!」 俺の横で尻もちをついた大男が、驚いた顔をする。 「まだそんな力が残ってたのか…」 そう呟く大男を無視して、俺は刀で身体を支えて立ち上がる。早くりつを助けなければと足を出すけど、思うように進まない。 そうしてる間にも、一人の男がりつに(またが)り、りつの白い肌を舐めた。 それを見た瞬間、俺の身体中の血が沸騰する。 腹の底から力が湧いて、走り出そうとした。 だが、すぐに動きを止める。俺は息を詰めて目を見開き、掠れた声を出した。 「なんだ…?」 りつに跨っていた男が、胸から血を吹き上げながら後ろへと倒れた。 りつの周りにいた男共は、蜘蛛の子を散らしたようにりつから離れる。 りつが、ゆっくりと身体を起こして立ち上がる。ふらふらと身体を揺らしながら、ぐるりと首を巡らせる。 「ひっ、ひいっ!」 「ばっ、化け物っ!」 男共が、ピクピクと震えながら倒れている男を放って逃げ出した。 「こらっ!おまえらどこに行くっ!」 大男が怒鳴って呼び止めたけど、男共の姿はすぐに木々の間に見えなくなった。 「ちっ、なんだあいつ、ら…」 大男が、りつを見て固まった。 なぜなら、異様な姿をしていたから。 りつの目は、俺を見ているものの焦点が合っていない。 りつの大きな瞳は、妖しく赤く光り、少し開いた口の端に、鋭く尖る歯が見えた。

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