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第20話
りつが、顔を上げて俺を見る。
その悲しそうに曲がった口がかわいくて、頬を何度も撫でてやる。
「りつは、少し他の子達とは違うようだ。だが、何も気にすることはない。今までのように暮らしていけばいい」
「僕…違うの?さよちゃんや、里の子に嫌われちゃう?」
「嫌われない。普通にしていればいい。ただ、怪我には気をつけるようにな。どうやらりつは、傷の治りが特別早いようだ」
「…わかった。ゆきはるは?けが…早く治る?」
りつに問われて、俺は考える。
たぶん俺も、異端者だ。
りつ程ではないが、昔から傷の治りが早かったような気がする。それに、父親に似て夏の暑さには弱いが、冬に風邪など引いたことがない。そして、普通の人より老いが遅れている。
ーー俺も、りつと似たようなものかもしれぬ。
俺は、りつの涙を拭いてやると、深く頷いた。
「治る。だから気にするな。それよりも、腕の怪我は治ってるからいいが、腹はどうだ?蹴られたのだろう?痛くはないか?」
「うん、大丈夫。どこも痛くないよ」
ずずっと鼻をすすりながら、りつが自分の腹を撫でる。
ーーそもそもそんなにはひどく蹴られてはいなかったのか、それとも自力で治癒したのか…。いずれにしろ、鬼の力とはすごいものだな。
俺は感動すら覚えて、再びりつを抱き寄せた。
さよちゃんの母親が届けてくれた飯を食べて、俺の布団に潜り込んできたりつと、眠りについた。
怪我の回復に体力を奪われているせいか、眠くて仕方がない。
俺は、りつの寝息を聞くよりも早く眠ってしまい、ぴちゃぴちゃという水音に気づいて目を覚ました。
俺の身体の上にりつが乗っていて、重い。
りつは華奢 だけど、怪我をしている身体には重く感じる。
「り…」つ、と声をかけようとして、動きを止める。
このぴちゃぴちゃという水音は、俺の顔の傍から聞こえてくる。
目線を動かすと、りつが、俺の肩の傷を熱心に舐めていた。
「…何をしている?」
りつは何も答えない。
まるで猫のように、ぺろぺろと傷口を舐め続けている。
「りつ」
少し大きな声で呼ぶと、りつが舐めるのを止めて、こちらを向いた。
「おまえ…」
りつの目が、赤く光っている。
そっと手を伸ばして頭を撫でる。
どうやら角は出ていないようだ。
「りつ」
もう一度名前を呼ぶと、はっと目を見開いた後に、りつの顔がくしゃりと歪んだ。
「ご、ごめっ…!昔、僕が怪我をしたら、ゆきはるっ、手当だって言って舐めてくれたでしょ?僕っ、早く治ってほしくて…っ」
「…そうか」
俺は、りつの口端についた血を指で拭いてやる。そして上半身を起こすと、りつの華奢な身体を抱きしめた。
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