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第21話

りつを抱きしめながら、違和感に気づく。 寝る時まで痛かった傷が、痛くない。 俺は顔を動かして、着物がはだけた肩を見た。 りつの唾液に濡れたそこは、まだ赤く()れてはいるものの、割れた傷口が塞がっている。 俺は、もう一度りつを見る。 りつの目は、もう赤い色は消えて、いつもの瞳に戻っている。 りつは鬼の力を使って疲れたのか、瞼が半分落ちて頭を揺らしていた。 「りつ…ありがとう。りつのおかげで傷が治った。もう痛くないぞ」 「よ…かったぁ…、んぅ、ぼくねむい…」 「ん、おやすみりつ」 「お…すみ…」 すぐに寝息が聞こえて、りつの身体が重くなる。 俺は、りつの身体を横たえさせると、そっと土間に降りて外に出た。 煌々(こうこう)と光る月明かりの元で、左肩を見て触れる。 赤く腫れた箇所を押すとまだ少し痛むが、三日もすれば、すっかりと良くなるだろう。 ゆっくりと肩を回すことも出来る。痺れていた指先の感覚も、戻っている。 りつは、なんと稀有(けう)な存在なのだろう。 心無い者に連れ去られぬよう、より一層しっかりと守らねばならない。 ーー鬼とは、邪悪の根源のように語られているが、りつはまるで無垢な神の子のようだ。 小屋の中で眠るりつを愛しく想いながら月を見上げて、りつの為にもっと強くならなければ…と拳に力を込めて誓った。 家の中へ戻り、りつの隣に寝転んで、その華奢な身体を抱き寄せる。 俺は、りつをたった一人の家族だと思っている。父親のように慈しみ、兄のように可愛がってきた。 決して亡くしたあの子の代わりではない。 「俺の大切なりつ。ずっと俺の傍を離れるなよ」 そう呟いて、角が隠れてるであろう額に、そっと唇を押し当てた。 それを、予想しなかった訳ではない。 いずれ、その時が来るだろうとは思っていた。 でも願わくば、今の平穏な毎日を、もうしばらくは続けたかった。

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