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第24話

赤く染まった景色の中を、りつの手を引いて道を急いでいると、「待ちなされ」といきなり声をかけられた。 足を止めて辺りをきょろきょろと見回す。 すぐ傍の道の脇にある大きい石に、老人が座ってこちらを見ている。 俺は、りつの手を引き寄せて肩を抱く。 「なにか用か?」 「ふはは、そんなに用心せんでもよい。わしは無力じゃ。お主、わしを覚えておらんかの?」 「……」 じっくりと老人の皺が刻まれた顔を見て、ようやく気づく。 「あの時の…」 「そうじゃよ。お主はちっとも変わらんの。じゃが坊やは大きくなった」 老人が、顔の皺を更に深くして、にこやかに言う。 俺の腰にしがみつくりつが顔を上げて、「だれ?」と首を傾げた。 「昔の知り合いだ。覚えていないか?」 少し考えて、りつが頷く。 「坊やに親切にしてもらったことがあっての。懐かしい顔を見かけて、つい声をかけてしまった。すまんの」 「ううん…大丈夫です」 老人の温和な物言いに、りつが、俺から少し身体を離して老人に笑いかける。 老人は、りつを見て満足そうに頷くと、今度は俺に向かって口を開く。 「すぐに陽が落ちる。この先に、わしの弟子の寺がある。今夜はそこに泊まらんかね?」 冬に比べて陽が伸びたとはいえ、すぐに真っ暗になり寒くなる。 俺は辺りを見て、老人に頭を下げた。 「そうさせてもらいます。案内してもらえますか?」 「そうするが良い。ほら、ついて来なされ」 「よっこらしょ」と掛け声を上げながら立ち上がると、老人が杖を持って歩き出す。 俺は、りつの手をしっかりと握りしめて、老人の後に続いた。 りつが、くいっと俺の手を引いて、身体を屈めた俺に背伸びをして囁く。 「ねぇ…あのおじいさん、杖、使わないのかなぁ。おかしいね」 ふふ、と笑うりつのかわいらしい笑顔に、俺もつられて笑顔になる。 「そうだな」と相槌(あいづち)を打って、老人が持つ杖を見た。 ーーあれは仕込み杖だろう。護身用に持ってるのだろうか。 一体何歳なのかわからないが、しっかりとした足取りで颯爽(さっそう)と先を行く老人に、俺はりつのことを話さなければならないと、更に強くりつの手を握りしめた。

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