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第25話

寺は小さいが、よく手入れが行き届いて綺麗だった。 老人の弟子だという住職は、目尻の下がった優しそうな壮年の男で、俺達を快く迎え入れてくれた。 泊めてもらえるだけでよいと思っていたのだが、質素だけど食事まで出してもらった。 更には湯まで用意してくれて、汚れた顔や身体を綺麗にできて、とてもすっきりとした。 「大変世話になりました。誠に申し訳ない」 「いえいえ、大したことはできませんが、我が師の連れてきたお客人ですし、ゆっくりと休んでください」 寺の端にある部屋に布団を敷いてもらい、疲れたりつが眠ったのを確認して、住職の元へ挨拶に来た。 穏やかに笑う住職の隣で、同じく穏やかに微笑んだ老人が、俺を見ている。 住職がいることに少し迷ったが、老人の弟子ならばいいだろうと、二人の向かいに腰を降ろした。 「ご老人、少し話してもよろしいか?」 「もちろん。わしも聞きたいことがある」 老人は、小さな器を持って中身を飲み干すと、「お主も飲め」と差し出した。 「あ、いや…俺は結構です。ご老人は、お好きなようだが」 「坊主のくせにと思うとるじゃろ?わしは生臭坊主じゃからな。なんでも食すのじゃ」 わははっと笑いながら、大きな徳利から酒を注いでまた飲み干す。 「それではこちらを…」と住職が差し出した器を受け取って、一口飲んでふぅ…と息を吐いた。 「何とも良い香りだ。こんなに高価な物を…。良いのですか?」 「少しの茶葉しか使っていないので、薄いかもしれませんが。たまのお客人がある時に、こうして私も飲むのです」 良いお茶の葉など滅多に手に入らないだろうにと恐縮しながら、香ばしい匂いと味を楽しむ。 お茶を飲んで寛いだ所で、俺はようやく老人に話を切り出した。 「ご老人…五年前にあなたに言われたことなのですが、覚えてますか?」 「坊やのことかね?」 「そうです」 「坊やは、お主によほど慈しまれてるようじゃの。未だ、人の子と何ら変わりがないように見える」 「…そのように見えますか」 「見える。が、何かあったかの?」 「はい。そもそも俺達がここにいるのも、そのことが原因です」 「ふむ…。なら本日、お主らと会うたのも、偶然ではなかったということかもしれぬな」 老人は、カタリと器を盆の上に戻すと、少しだけ居住まいを正した。

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