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第26話

俺は一度小さく息を吐くと、静かに話し出した。 「実は、十日ほど前に、りつが盗賊に襲われたのです。すぐに助けに行ったのですが、情けないことに上手く助けられず…。危うくりつが陵辱されるところでした」 「なんじゃと?あんな幼い子を?鬼畜な奴らじゃ!」 「ええ…。俺は命にかえても守ろうとしたのですが、肩を斬られてしまい動けなくなった。いよいよ危ないという時に、りつの中の鬼の血が目覚めました。目が赤く光り、角と牙が生え、盗賊の一人を殺めたのです」 「ふむ…」 老人は一言そう言うと、開け放たれた障子から見える、煌々と輝く月を仰いで次を促した。 「それで?」 俺も縁側に近寄り、月を見上げながら続ける。 「盗賊の下っ端共は、りつに恐れをなして逃げたのですが、盗賊の頭がりつに向かって斧を振り上げた。りつは…その斧を持つ腕を、一瞬のうちに切り落としてしまった」 「ほほう。何とも凄まじい力じゃの」 「はい。結局はその頭も逃げてしまいました。りつのことが知られたら困ると焦りましたが、俺は身体を動かすことが出来なかったので、追いかけるのを諦めました」 「賢明じゃ。そんな下衆は放っておけばよい。そ奴らの言うことなど、誰も信じやせん」 老人が、俺に顔を戻しつつ鼻息荒く言う。 俺は深く頷くと、「しかし…」と息を吐いた。 「俺は肩を、りつは腕を斬られて、かなりの深手を負って動けなかった所を、りつと仲の良い里の子供が、大人達を呼んできてくれて助かったのですが…。りつは、自身の腕の傷を一晩で治してしまった。俺の肩の傷も、りつが治してしまった。それがまずかった。かなりの怪我をしていた俺達が、すぐに動けるようになったことを不審に思った里の人達が、俺とりつを殺す計画を立てたようです。このことも、盗賊に襲われた時に、大人達を呼んで来てくれた子供が知らせてくれて…。間一髪、俺達は逃げることが出来ました」 「…なるほど。坊やに良い友がいてよかったの」 「はい…」 俺は、彼女は無事に帰れただろうか…とさよちゃんの人懐っこい笑顔を思い浮かべて、再び月を見上げた。

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