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第15話 ファンレター
市五郎が玄関を開け結城を迎え入れるなり、彼は眼鏡の向こう側でキラキラと目を輝かせていた。そのあまりの可愛らしさに市五郎の時が停止した。
「届きましたよ! ファンレター」
「……え……」
両手をずいと差し出す結城は大変興奮している様子で六通の封筒を市五郎へ向けた。
ファンレターという聞きなれない単語にポカンとしてしまう。
状況を把握できないまま、市五郎は一先ず結城を玄関の中へいざなう。玄関の鍵を掛けながら、呆けた表情のまま結城と可憐な手に握られている封筒を見下ろした。
「高山さん宛です」
「……私に、ですか……」
「あ、……すみません、会社の規則で作家さんにお渡しする前に、危険物がないか、脅迫めいた文章ではないかをあらかじめこちらでチェックしないといけないため、先に封を開け確認させてもらいました」
「…………」
気がついたら市五郎は結城に抱きついていた。
いや、結城にしてみれば、上からのしかかられたという感じだろう。とにかく、初めてのハグというものを自らしてしまったのだ。もちろんすぐに我に返り、慌てて回した腕を解いた。
「す、すみません。あまりに感激してしまって」
結城は驚いていた様子ではあったが、少しはにかんだように「ウンウン」と頷き市五郎へ微笑んだ。
「すごいですよね、六通も。良い反響だと思います」
「全部、結城さんのお陰です。本当にありがとうございます」
書斎へ戻り、結城と共に震える手で封筒を開いた。
結城は市五郎の少し後ろに正座をして待ち構えている。
手紙の内容は、どれも嬉しい物ばかりだった。結城の読み通り、濡れ場シーンのみならず、主人公のミッションの方でもドキドキを感じられると興奮の感想が書きつづられている。今後の展開を期待しているというものや、是非、シリーズ化して欲しいとハッキリ書いてあるものもあった。
「……すごく、嬉しいです」
「ええ。頑張りましょう」
生き生きとした表情の結城が手を差し出す。市五郎はその手を見つめ、おそるおそる手を伸ばし、そっと握った。小さな手は市五郎の手にすっぽり覆われ、指が余ってしまうくらいだった。結城は市五郎の手をもう片方の手で包み、頷きながら固く握手する。
やはり小さくて、柔らかく温かい。その体温に市五郎の胸は少女漫画のようにキュンと鳴る。それを誤魔化すように、「コーヒーを入れますね」と台所へ避難したのだった。
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