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第20話 告白

 この心音は私の物なのか、それとも結城さんか……。  雷もかなり小さくなった。もう結城を抱きしめる理由もない。腕を解くしかないのだ。  市五郎が腕を緩めたその時だった。また頭上で大きな雷が鳴った。ギュッと結城がすがりつく。市五郎は結城の顎に手を掛けクイと持ち上げると、小さく開いている唇を塞いだ。結城の目が大きく見開く。 「んんッ!」  篭った変な声を上げ、結城は腕の中で必死に逃れようともがいた。市五郎はやぶれかぶれで言った。どうせ拒否されるのなら、ちゃんと気持ちを伝えよう。そう思ったのかもしれない。結城の唇を解放すると同時に打ち明ける。 「好きなのです。あなたが」 「ええっ!」  結城は大きな疑問の声を発した。 「聞こえませんでしたか? あなたが、好きなんです」 「……す……き?」   結城は驚いた顔のまま文字通り固まった。言葉を失ってしまったようだ。  それにしても良く固まる人だ。そこが可愛らしくて、魅力的なのだけれど。などと、こんな時なのに考えている自分に気がつく。 「誤解しないで欲しいのですが、私は同性愛者ではありません。そういう経験も女性としかありません。そして、もう、人を愛することもないだろうと、思っていました」  固まっているのをいいことに、結城の柔らかそうな頬にそっと手のひらで触れる。想像通りの柔らかさだ。市五郎の手のひらにしっとり吸い付いてくる。いつまでも触れていたくなる。 「あなたに会うまでは、そんな気持ちはもう私にはないと思っていたのです」  結城の瞳が眼鏡の奥で動揺と不安に揺れている。 「あ……ありがとう……ございます」 「礼を言うのは私の方です」  邪魔なメガネをスッと上げて抜き取る。 「ああっ」  見上げた結城の唇を、市五郎はまた塞いだ。すぐに視線が市五郎に戻される。見開いた瞳はウルウルと濡れ、今にも溢れそうだ。唇は固く閉じたまま。市五郎はその唇からそっと離れ、フッと微笑んだ。外したメガネを結城へ返す。 「無理強いするつもりはありません。ただ、誤解して欲しくなかっただけです。キスしたのは、あなたの色っぽい姿に魔が差したからです。すみませんでした」  結城は手のひらの眼鏡を見つめ胸の前でギュウッと握ると、ボソッと小さな声で言った。 「あの、と、突然すぎて……でも、お気持ちは……わかり、ました」  おそるおそる視線を上げる。潤んだままの目が、上目遣いで市五郎を見つめてくる。  怖がっている。でも、拒絶とも違う空気を市五郎は感じた。 「あなたは優しい人ですね。ですが、ハッキリ拒否しないと、私はあなたを抱こうとしますよ?」  結城の体がビクッと跳ね、後退する。しかし相変わらずその瞳は市五郎を捉えたままだ。おどおどとしたその様子は市五郎の中の背徳感と保護欲を同時にくすぐった。  市五郎はもう一度、結城を怯えさせぬようゆっくり囲い、そっと囁いた。 「怖がらないでください。あなたを傷つけることはしない」

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