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第21話 告白2
結城の肩を抱き、廊下に面した和室を開けた。そこはタンスが並ぶ衣装部屋だ。押し入れを開け、客用の布団を掴むと畳に敷く。結城は不安気な声で呼びかけた。
「あ、あの……」
「廊下では身体が冷えてしまいます。あなたは大事な人なのです。風邪など引かせたくない」
市五郎の言葉に、結城を首を竦め小さくなりながら、少しはにかむ表情を見せた。
「いつまでも濡れた服を着ていたら、体温を奪われてしまう」
結城を敷いた布団の上に座らせネクタイを外し、シャツのボタンを上から外す。
「じ、自分で、やります」
「やりたいのです。やらせてください」
おかしな会話だと思いながらシャツのボタンを外す。結城はおろおろとするばかりだった。焦りと羞恥が混じった顔で体をこわばらせる。シャツを脱がせると、白くて柔らかそうな肌が現れた。市五郎は熱い視線で結城を見つめ、ため息を漏らした。
「すごく……綺麗だ」
「……へ?」
ちゃんと聞こえているのに、華奢な体を竦め居心地悪そうに、許しを請うような表情で聞いてくる。まるで生娘の様な結城に、この人はいくつ顔を持っているのだろうと、市五郎は思う。
奔放な顔も、しっかり者の顔も、爽やかな笑顔も、怯えた表情も、情けない困り顔も、どれもこれも魅力的だ。
市五郎は掛け布団を掴み、結城を押し倒した。
「わっ……」
二人で布団にすっぽりとくるまる。状況に困惑している結城へ市五郎は穏やかな口調で言った。
「これなら、寒くないでしょ?」
「はぃ……でも、その」
小さな、小さな声。困った表情がとても愛らしい。
「あなたは、とても可愛らしい。全部、見せてくれませんか?」
髪を撫でながら、市五郎は丁寧にお願いした。結城は眉を下げ、見上げていた瞼を落とし瞬きをする。
「あの、全部……って?」
「あなたが喘ぐところも、鳴くところもみたい」
「え、それって、え?」
ボーイズラブの雑誌編集をしていて、市五郎の書いた小説を読み、モデルが自分だとわかっているはずなのに、結城は不思議なほど戸惑ってばかりいる。まるでそういう世界を知らない人間のような反応だ。あのレストランで見た結城はどこにもなく、無垢な仕草や、身体の微弱な震えは戸惑いの演技をしているようにも見えない。その掴めない感覚がまたいっそう、市五郎を惹きつけた。
この人を知りたい。全てを。
市五郎は結城の耳に唇を寄せた。体を竦める結城の耳を唇ではさみ愛撫すると、華奢な身体がフルフルと震え、息を飲む。下着の上からモノに触れれば、結城の腰がキュッと引く。初めてする行為だったが、これが結城のだと思うと、酷く高ぶった。
「あ、あのっ、ま、待って」
「待ちますよ」
耳元で囁きながら、布の上から緩く刺激を送る。結城は耐えるように目を閉じ、顔を少し背け、与えられる刺激に怯え、体を小さく震わせる。その姿は本当に処女のようだ。
「気持ちよくないですか?」
市五郎の問いに、小さく震えるように頷く。ふうふうと聞こえる微かな呼吸。
その様子に手をどけ、体重をかけないように結城の顔の横に肘を突いた。
閉じていた瞼が開き市五郎を見る。
「あなたを好きでいて、いいですか?」
市五郎の控え目な告白に結城は瞳を揺らしたまま、黙って見つめ返す。
その瞳に映ったのは逡巡だったのか。答えを待ち、同じく黙ったまま見つめ返す市五郎に、結城は小さな声で「はい」と答えた。
ホッと力を抜き、結城へ微笑む。市五郎の目頭が熱くなった。まばたきした途端、結城の白く柔らかな頬に一粒の涙が落ちてしまう。
市五郎はそれを指で拭い、礼を伝えた。
「……ありがとう」
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