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野宿するには寒すぎん? 2

 いい大人ならカプセルホテルとか、ネカフェでも一晩過ごせる。身分証明もできない子供だから、こんなところで野宿なんて発想になるのかもしれない。 「……はぁ」  どうしよう。見て見ぬふりしてもいんだけど、未成年だと思うと、ちょっと可哀想な気もする。  男は、どこまでも新聞紙を追っかけていた。間抜けな姿。まるで新聞紙にからかわれているようだ。北風に乗って舞う新聞は、男を翻弄しフワリと舞い上がると、フェンスを超えてハラリと落ちた。  げ。  また吹き付ける風。  新聞紙はあろうことか、バサバサと音を立てて俺の足に絡まり止まった。  男が公園から出てくる。そして躊躇することなく俺に近寄って来た。俺はしかたなく足に絡まる新聞紙を捕まえて、そいつを見た。  分厚いジャンパーのフードをかぶった……少年のような雰囲気の男。  毛の長い茶色のファーの中に色白のキョトン顔。物怖じする気配のない真っすぐな瞳。小さな唇が薄く開いて言った。 「ソレ、俺の」 「あ、う、うん」  年齢は分からない。若いけど、未成年ではないのか……? もう少し上なのかもしれない。でも、やはり声は幼い。  そう思いつつ、掴んだ新聞紙を渡す。  男は新聞紙を見て、キョロッと視線を上げた。次に口角をムニッと上げて、愛想のいい表情になった。 「ありがと」  そう礼を言うと、新聞紙を受け取り、クルリと背を向け公園へ戻ろうとする。 「あ、あの」  思わず声が出た。自分にギョッとする。  男はピタッと立ち止まり、顔だけで振り返ってこちらを見た。 「あ、あの……もしかして、公園で寝るつもり?」 「そうだけど」  見りゃ分かるでしょ? と言いたげな声。  また着信音が鳴ったが、鬱陶しそうに携帯を取り出し通話を切ってしまう。 「……家出したの?」 「そ」  素っ気なく言うとポケットに携帯を落とし、公園の中へ戻ろうとする。その背中に少しだけ大きな声で言った。 「明日の朝は多分、マイナス三度くらいになるよ。下手したら……ていうか、凍死するかも。公園はやめたほうがいいと思うけど」 「……凍死……。ん~。つっても行くとこないしなぁ」  星空を見上げ、男は指先で顎をポリポリと掻いた。  あんまり困った雰囲気でもないのが不思議だ。 「……うち、来る?」  口に出した途端、一気に後悔した。  さっき触らぬ神になんとかって思ったばかりなのに。  あ、でも、物騒な世の中だ。警戒心もあらわに拒否されるかもしれない? と、ちょっと期待する。でも男はパッと顔を上げ、期待に満ちた眼差しで俺を見た。 「マジで?」 「え、あ、う……うん……。アパートだし、狭いし、あんまキレイじゃないけど、ここよりはマシだとは思う」  男は、体ごとクルリと方向転換してこちらへトトトと歩み寄った。手に持っていた新聞紙が落下し、風に舞い上がる。  次の瞬間、俺の手はキンキンに冷えた両手に握られていた。  意外に柔らかい手にいきなり握られドキッとする。男は更に俺の手をキュッと握り言った。 「あんた良い人だね!」 「つめた……。冷え切ってんじゃん。すぐそこだから、とりあえず歩こうか?」  俺は男の手から自分の手を解くと、パッと離れ歩きだした。  動揺している。自ら引き起こしたことだけど、すごく動揺してる。  それを悟られたくなかった。  男は黙ってうしろをついてくる。  歩く足音は、妙に軽快な音に聞こえた。

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