2 / 51
野宿するには寒すぎん? 2
いい大人ならカプセルホテルとか、ネカフェでも一晩過ごせる。身分証明もできない子供だから、こんなところで野宿なんて発想になるのかもしれない。
「……はぁ」
どうしよう。見て見ぬふりしてもいんだけど、未成年だと思うと、ちょっと可哀想な気もする。
男は、どこまでも新聞紙を追っかけていた。間抜けな姿。まるで新聞紙にからかわれているようだ。北風に乗って舞う新聞は、男を翻弄しフワリと舞い上がると、フェンスを超えてハラリと落ちた。
げ。
また吹き付ける風。
新聞紙はあろうことか、バサバサと音を立てて俺の足に絡まり止まった。
男が公園から出てくる。そして躊躇することなく俺に近寄って来た。俺はしかたなく足に絡まる新聞紙を捕まえて、そいつを見た。
分厚いジャンパーのフードをかぶった……少年のような雰囲気の男。
毛の長い茶色のファーの中に色白のキョトン顔。物怖じする気配のない真っすぐな瞳。小さな唇が薄く開いて言った。
「ソレ、俺の」
「あ、う、うん」
年齢は分からない。若いけど、未成年ではないのか……? もう少し上なのかもしれない。でも、やはり声は幼い。
そう思いつつ、掴んだ新聞紙を渡す。
男は新聞紙を見て、キョロッと視線を上げた。次に口角をムニッと上げて、愛想のいい表情になった。
「ありがと」
そう礼を言うと、新聞紙を受け取り、クルリと背を向け公園へ戻ろうとする。
「あ、あの」
思わず声が出た。自分にギョッとする。
男はピタッと立ち止まり、顔だけで振り返ってこちらを見た。
「あ、あの……もしかして、公園で寝るつもり?」
「そうだけど」
見りゃ分かるでしょ? と言いたげな声。
また着信音が鳴ったが、鬱陶しそうに携帯を取り出し通話を切ってしまう。
「……家出したの?」
「そ」
素っ気なく言うとポケットに携帯を落とし、公園の中へ戻ろうとする。その背中に少しだけ大きな声で言った。
「明日の朝は多分、マイナス三度くらいになるよ。下手したら……ていうか、凍死するかも。公園はやめたほうがいいと思うけど」
「……凍死……。ん~。つっても行くとこないしなぁ」
星空を見上げ、男は指先で顎をポリポリと掻いた。
あんまり困った雰囲気でもないのが不思議だ。
「……うち、来る?」
口に出した途端、一気に後悔した。
さっき触らぬ神になんとかって思ったばかりなのに。
あ、でも、物騒な世の中だ。警戒心もあらわに拒否されるかもしれない? と、ちょっと期待する。でも男はパッと顔を上げ、期待に満ちた眼差しで俺を見た。
「マジで?」
「え、あ、う……うん……。アパートだし、狭いし、あんまキレイじゃないけど、ここよりはマシだとは思う」
男は、体ごとクルリと方向転換してこちらへトトトと歩み寄った。手に持っていた新聞紙が落下し、風に舞い上がる。
次の瞬間、俺の手はキンキンに冷えた両手に握られていた。
意外に柔らかい手にいきなり握られドキッとする。男は更に俺の手をキュッと握り言った。
「あんた良い人だね!」
「つめた……。冷え切ってんじゃん。すぐそこだから、とりあえず歩こうか?」
俺は男の手から自分の手を解くと、パッと離れ歩きだした。
動揺している。自ら引き起こしたことだけど、すごく動揺してる。
それを悟られたくなかった。
男は黙ってうしろをついてくる。
歩く足音は、妙に軽快な音に聞こえた。
ともだちにシェアしよう!