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防衛本能 4
「ごめんなさい」
考えていると、ユウがボソッと呟くように謝ってきた。
「え? な、なにが?」
「……コップ一個ダメにしちゃった。お水貰おうと思って、そしたら手が滑って落としちゃって。割れたガラスは全部拾ったけど、掃除機どこにあるかな?」
「へ? ……あ、ああ。そうなんだ」
謎が解けた。ユウはガラスの破片が落ちてないかキッチンで屈んでチェックしていたらしい。ホッとした途端、しょんぼりしているユウに気付いた。
「いいよ。別に。それより怪我してない? って裸足じゃん! ちょっと見せて」
俺はユウの手からグラスを取るとローテーブルへ置き、座っているユウの両方の足首を持ちグイと上げた。
「わっ」
フラットにしたソファの上でユウの体がコロンと仰向けになったけど、構わず足裏を見る。目を凝らしたけど、足の裏はキレイなものだった。照明に反射して光るものが無いかチェックして、足裏をパンパンと手のひらで払う。
「ソファに足、乗せてて。ここら辺も掃除機かけるから」
「俺、するよ?」
「いいよ。すぐ済むから」
キッチンの流し台に置いてある破片を片付け、寝室から掃除機を持ってきて電源を入れた。ユウは言われた通りソファに足を上げ、なぜか正座していた。太ももへ両手をグーにして乗せ、じっと俺の行動を見ている。キッチンの床と廊下、リビング、ユウが歩いたと思われるところを入念にかけた。
「はい。終わり。もう足おろしていいよ」
「ごめん……ね?」
さっきまでの奔放さとは一変。しおらしくションボリとした言い方に、思わず微笑んだ。
「わざとじゃないんだし、そんなションボリしなくていいよ。形あるものいつかは壊れる」
掃除機を寝室へ片付け、リビングへ戻ってユウへ聞いた。
「そういえば歯磨きは済んだ?」
「うん。使わせてもらった」
時計を見るともう深夜の一時。
すっかり酔いも冷めてしまったし、明日から連休だけど……。
「じゃ、俺は寝るよ。寝る時は電気とテレビ消してね? あ、これエアコンのリモコンね」
相手は二つ下。未成年でもないし指図するのもおかしいと思うし、ましてやこのまま別れた恋人(男)との馴れ初めを聞く勇気もない。
ユウは「うん、俺ももう寝るよ」と言って、テレビとエアコンの電源を落とし、ソファへ寝転がると、布団を広げてすっぽりと潜り込んだ。鼻まで隠し手を振る。行動が早い。「部屋の電気は消してね」のスタンスだ。
「あ、ああ。じゃあ……おやすみ」
壁のスイッチでライトを消す。
「おやすみぃ」
キッチンも消灯して、少し考え階段の天井部分にある照明のスイッチを入れた。夜中にトイレやキッチンへ行きたい時に真っ暗だと危ないだろうし。またなにかにぶつかって怪我をしたり、物を落とされても困る。
ソファへ直接、光は当たらないけど、一応声を掛けておこう。
「眩しい? 消した方がいい?」
「いいよぉ」
「了解。おやすみ」
「はーい。おやすみぃ」
寝室へ入りベッドへ潜ぐった。
「う……さみぃ」
物音がしないかとしばらく耳を澄ましていたけど、流石に眠い。
朝起きた時……、もしかして、いなくなってるのかもしれないな……。
なんて考えながら眠りについた。
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