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元カレに買ってもらった携帯

 アラームの音で目が覚めた。  ……あぁ、そうだった。今日から休みなんだからアラームなんて要らなかったのに。まだ七時だよ。  携帯のしつこい音を止め、布団を掛け直そうとして思い出した。  ……そうだ。昨日、見ず知らずの人間を家に泊めたんだっけ。  ムクリと体を起こす。冷え切った部屋の空気に、綿の入った分厚いハンテンに袖を通しながら、寝室のドアを開けた。廊下もヒンヤリしている。リビングは遮光カーテンのお陰で薄暗く、静まり返っていた。  ソファベッドの上を見れば、こんもりと盛り上がっている。  布団から見えるのは髪の毛だけ。  すっぽり被ってんな。寒くなかっただろうか。  ローテーブルの上のリモコンを手に取り、エアコンを点けた途端、テーブルの上の携帯が点滅してゴゴゴゴゴと震えながら移動していく。マナーモードになっている携帯は、何度も唸りしばらくして静かになった。  画面には着信が二十八件と表示されている。  すごい数だな。もしかして、もしかしなくても別れた恋人からだろ? というか、これ、別れてないんじゃね? 実はただの痴話喧嘩で俺が余計なことしちゃったとか? でも家出するくらいだから、痴話じゃないのかな? どっちにしろ、相手は酷く心配して一夜を過ごしたのではなかろうか?  携帯がまた震えだす。  俺は少し考え、布団の山をポンポンと軽く叩いた。 「おはよ。携帯が鳴ってるよ」  ユウはもそもそ動いて更に布団の中へ潜ってしまった。  だよね。昨日「おやすみ」を言ったのは一時過ぎだし……。  その間も唸り続けている携帯。  どうしようか。行方不明とか、捜索願いとか、そんなの出されたら厄介なんだけど。  俺はもう一度ユウを布団の上から揺すった。  ちょっと大きめの声で呼びかける。 「おーい。なんか着信がすごいことになってるから、相手、心配してるかもよ? とりあえず出たら?」 「んぅ……」  唸るだけで、起きる気配がないどころか、更にズリズリ布団の中へ潜って体を丸めてしまう。  唸っていた携帯がやっと静かになった。  また鳴る? と身構えていたけど、相手はとうとう諦めたらしい。沈黙する携帯にホッと胸を撫で下ろしキッチンへ向かった。  やれやれ。すっかり目が覚めちゃったよ。  コーヒーメーカーをセットして冷蔵庫を開ける。  ……やばい。食料がなにもない。  入っていたのは、いつ買ったか記憶がない卵一個と缶ビール三本。白菜の漬物。以上。  棚の中もついでにチェックする。  カップラーメンが一個。麦焼酎の瓶が一本。  うーん……。大掃除より食料の買い出し? いや、買ったって料理しないし。俺一人なら近所のカフェでブランチするんだけど。というか、このお客はどのタイミングで起こせばいいんだろう?  コーヒーメーカーがコポコポと音を立てる。香ばしく芳醇な香りを胸いっぱい吸い込み、カップを用意した。  エアコンで部屋も暖まってきたし、ソファには座れないのでカウンターでチャンネル登録している動画ニュースを観ながら淹れたてのコーヒーを飲む。  国内と海外のニュースをひたすら観て、顔を洗い歯磨きして、パジャマから服へ着替えた。それからラグへ直接座り、ソファベッドにもたれ、普段ゆっくりと読めない本を読みながら、客人が起きるのをひたすら待った。  九時。ピクリとも動かなかった布団の山が動いて、ムクッと富士山のように盛り上がった。正座した姿で客人が顔を出す。頭は見事に爆発していた。ユウは大きなあくびをしながら、ぐーっと気持ちよさそうに伸びをして、フウ……と腕をおろすと、ぼんやりした表情で辺りを見回した。  ラグに座る俺と目が合う。 「えっっ!」  ユウは絶句して、目をゴシゴシと擦った。  おいおい。

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