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モヤモヤ 2
「カートもう一個持ってくるから、ちょっと待ってて?」
「はーい」
入口まで戻りながら、考える。
別にユウのためにコタツ布団を買ったわけじゃない。ここ数年、出してなかったし、無いことに不便さも感じていなかったけど。たまたまだ。たまたま、お手頃価格でコタツ布団が売っていたから。……って、誰に言い訳してるんだろう。
コタツ布団をカートに入れた時に、二人でみかんを食べながらテレビを観る風景をチラッと思い浮かべたのは自分だろうに。
それに……。
ユウは急に「ありがとうございました」って、言い出すかもしれない。「お世話になりました」って。ふいに家を出ていくかもしれないのに……。
途端に気付いた。「待ってて」と言った場所にユウがいるとは限らない。
そんな気がして、空のカートを押しながら早歩きしている自分。通路をまっすぐ脇目も振らず歩き、コーナーを曲がった。
そこに……。
ユウはちゃんと待っていた。近づく俺に気付き、軽やかな声で言う。
「お帰りぃ」
「あ、あは。ただいま。行こうか」
「うん」
返事をして、俺のちょっとうしろをカートを押しながらついてくる。
ホッとしているのがおかしかった。ホッとしているだけじゃない。なんだろう。この、胸にじんわり広がる喜びは。
俺はいったい、どうしてしまったんだろう。
「飲み物。なにが好き?」
「お茶かな」
「緑茶?」
「なんでもいいよ。水でもいいし」
「了解」
二リットルのペットボトルをカゴの中に入れる。お茶を三本。ミネラルウオーターは五本にしとこう。
「どうしようかな……年越し蕎麦がいい? うどん派?」
「お蕎麦で」
「了解。みかん好き?」
「普通に好きだけど、そんな気を使ってくれなくていいよ?」
「やっぱさ。コタツにはみかんじゃね?」
「それは同意」
「ふふ」
カップラーメンを数個適当に入れて、外に出るのが億劫になるくらい雪が降った時のことを想定して、冷食のチャーハンや、カチカチに凍った火にかけるだけで作れるラーメンと長崎ちゃんぽんも買った。
絶望的に料理は作れないし、最低、米さえ買っておけばなんとかなるだろうし。包丁も使わないからみかんが助かる。冬場のビタミンC摂取にみかんは欠かせないよな。
それから酒のツマミのミックスナッツや、柿ピーも放り込む。
「さて、これでいいかな……」
カート二つ分の商品をレジに通し、袋に詰めて、またカートへ乗せて駐車場までガラガラと運ぶ。こういう時、人手があると助かるよね。
荷台のドアを開けて荷物をどんどん押し込む。
「ありがとう。助かったよ」
「うん、しかし買ったねぇ〜」
「基本外食だけどさ、大雪降った時のことを考えてね? 大晦日、新年にかけてひもじい思いをするのは嫌だろ?」
「へぇ~。確かに。ヒロ君ってしっかり者なんだねぇ」
「そんなこともないけど……家事苦手だしね。行こうか」
荷物を積み終わると、運転席へ乗り込む。エンジンをかけながらユウへ聞いた。
「携帯。付き合ってた人以外にアドレスはどれくらいあるの?」
「ゼロだよ」
「じゃ、返しに行こうか?」
ユウはあからさまに嫌そうな顔をした。
「なんで?」
「与えられたものをいつまでも持ってるの嫌じゃない? もう着拒にしたのなら持ってる意味すらない。郵便ポストに入れておけば、完全にオサラバできるよ?」
「別に気にしないし。あれば便利でしょ? こっちからはどこにだってかけれるんだし。返さなくっても……もうオサラバはしてるし……」
チラッと目線を動かして、俺を見る。
その目が動揺しているようにも見えた。
「その通話料も通信料も元彼が払ってるんだけど。そこはいいの? もっと言えばその本体にだって、何万ってお金を払って、彼は分割で月々支払っているのを知ってる?」
「……嫌なら、解約するんじゃない?」
口を尖らせ、ボソボソ言う。
子供が言い訳をしているみたいだな。
「じゃあ、解約しなかったら? 彼がいつまでもユウからの連絡を待っていたら? 戻るの? 彼は期待するだろうね。ユウがずっと携帯を使用している間」
「わかったよぉ……。でも、ばったり出くわしちゃったら? 俺もう会いたくないんだけど」
「うしろに移動して道案内してくれる? 外からは見えないから。で、俺がポストへ投函しておくよ。それならいいだろ?」
「いいけどさぁ。……ねぇ、なんで?」
「ん? なにが?」
「なんでそこまでしてくれんの? 赤の他人なのに」
「うーん……」
思いもかけないユウの問いに言葉を探した。
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