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猫のはなし 2
で、ここからが大変だった。
リビングにコタツを設置するためには、ローテーブルと、ソファを片付けなければならない。
一階が物置になってはいるけど……。
コタツをしまってソファを購入した時、業者に二階へ運んでもらった。
俺が下を支えて、ユウが上でソファを支えながら階段を降りるなんて絶対無理だよな。下手したら俺、転落する。即死だよ。
結局ローテーブルの足を外し、クローゼットへしまい、ソファはリビングの隅に置いておくことにした。ちょっと狭いけど仕方ない。
「掃除機掛けるから。コタツはまだだよ」
ウキウキとクローゼットから出したコタツを運ぼうとするユウを止めて、リビングの掃除を開始。
どうせ大掃除をしなくちゃいけなかったんだ。ついでにやっとくか。
洗面所の雑巾を絞り、ユウへ渡した。
「はい。ユウは窓拭いて」
「ほい」
意外にも素直な返事。「えーーー?」とか文句のひとつでも出るかと思ったのに。せっせせっせと窓拭きして、また雑巾を絞り、ベランダへ出て外側の窓拭きもしている。
「外はそんな頑張らなくてもいいから。寒いし」
「うん」
返事をしながらまた雑巾を絞りに洗面所へ。
今度は中々帰ってこない。
なにやってんだ? と思いつつ、ホットカーペットとラグを二つに折り、掃除機を掛ける。十五分程してやっと帰ってきたユウが言った。
「ついでに寝室とお風呂場の窓もやっといた」
「お? ありがとう!」
なんにもできなさそうな頼りない雰囲気のくせに、案外仕事が早い。
「じゃ、これ着て。玄関のガラスも拭いてくれる?」
俺のハンテンをユウへ投げた。ユウはパシッとハンテンを受け取り、袖を通しながら階段を降りて行った。数分で戻ってくる。渡したハンテンが大きいせいで、華奢な体型のユウがずんぐりむっくりとしたフォルムになっているのが可愛い。
「他にも拭くとこある?」
「うーん。キッチン周りで汚れが気になるところがあったら適当に拭いてくれる? テキトーでいいからさ」
「りょうか~い」
リビングの掃除を終えて、ホットカーペットとラグを引き直す。その上に買ったばかりのコタツ用の敷布団を敷く。三枚も敷いて、クッションもあるから、お尻が冷えることはないだろう。
寝室からコタツを運び、コードをコンセントへ差し込む。掛け布団を広げながらキッチンを見ると、ユウは嬉しそうな顔でこちらを見ていた。
「……嬉しい?」
ユウがいそいそと戻ってくるなり完成したコタツに潜り込んだ。持ち上げたコタツ布団に頬をスリスリしている。ものすごく嬉しそうだ。
「まだ暖かくないだろ」
苦笑いしてスイッチを入れる。
「やっぱ冬はコレだよねぇ」
ユウは幸せそうに言った。
思わぬ同居人の出現により、予定にもしてなかった大掃除が二十八日に終わってしまった。適当にとお願いしたキッチンはビックリするほど綺麗になっていた。玄関周りも、風呂も、寝室も。
ぶっちゃけ俺はリビングの掃除しかしていない。だから洗面所とトイレはいつもより丁寧に掃除した。掃除から帰って来た俺に、ユウは行く前と全く変わらないポーズで「おつかれ~」と声をかけてきた。
よっぽどコタツが好きなんだな。
コタツ布団に気持ちよさげに頬を埋めていたユウが少し頭を持ち上げ、向かい側に座った俺を見る。
な、なんだよ。
たじろいでいると、ユウが口を開いた。
「ねぇ、……もしかして俺のこと飼ってくれるの?」
「へ……えっ?」
突然の想定外の質問に心臓が口から飛び出しそうになる。ユウは変わらずジーッと俺の目を見つめてくる。
「か、か、飼うって……昼間のは例え話だよ。ははは……」
「そう」
短く返事したユウはまたコテンと頭を倒した。そして頬をコタツ布団に埋めて目を瞑ってしまった。
「ちょ、ちょっと、ちょっと、なんでションボリしてんだよ。飼うなんて、人に使っていい言葉じゃないだろ?」
「別にションボリなんてしてないよ」
してんじゃん!
「いや、だからぁ。そこじゃなくて。いればいいんだよ。ユウが……いたかったら。でも、飼うなんて言葉は使いたくないよ。なんか……背徳的でしょ?」
自分で言った言葉にドキッとする。
ユウは目を開けて俺に視線を向けると納得いかないって顔で「ふーん」と言って、また目を閉じてしまった。
なんなんだよ。その不満そうな「ふーん」は!
「え……、ユウは飼われたいの? 犬や猫みたいにペットになりたいの? そうじゃないよね?」
「別にぃ」
興味ないですって返事。会話になってない。質問にも答えない。
俺の一番嫌いなパターンだ。すっかりヘソを曲げたみたいな態度。
どう言えば良かったのかななんて、そんなの分かんねーよ。俺の「いればいいんだよ」って言葉は宙ぶらりんのまま放置かよ。
全く動かないユウ。
よく見ると唇がかすかに開いてる。規則正しい呼吸音……えっ!? 寝ちゃったの?
「なんだよ、それ」
座ったまんま……器用なやつ。
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