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考える男 3
「ノーマルってあやふやだよね。自分では普通のつもりでも、人からみたらおかしいかもしれない。価値観なんて人それぞれだしね。正解なんてないのかも。ただ、俺は頭が固くてここまで来ちゃったから……衝動で行動するとか、ないかも。常に周りとのバランスや、一般常識と照らし合わせて生きてきた気がするよ」
ユウが「ふーん」という顔する。
「ちょっと、窮屈そうだね。ノーマルってなんなんだろうね。性別で好きになるわけじゃないと思うんだけどなぁ。俺も、相手が男だから好きってわけじゃないし。女の子見ても可愛いな綺麗だなって思うし 。普通にエッチだってできるし。たまたま好きになった相手が男だった。それだけ。それだけなんだけどね……」
アルコールを摂取しすぎていつもより判断ができない脳になっていたかもしれない。ユウの言葉はとても説得力があって、心に染み込んできた。
「たまたま好きになった相手が……」
ツルツルで白い肌。潤んだ瞳。小さくて上品な唇。綺麗に通った鼻筋。柔らかい雰囲気も、気まぐれな猫みたいな言動も、とても好ましい。
昔から、こういうタイプには弱いんだ。イライラさせられる時もあるけど、惹かれる。己がガチガチに堅物だからなのか、俺の心のどこかに振り回されたい願望があるのかもしれない。
しかしそれは、いつでもいい女限定だった。いい女、小悪魔チックで近づいたら痛い目見そうな女……。
ユウの性別を抜けば、当てはまるのかもしれない。だから戸惑う必要もないのかも……。
「……ビール……持ってこようか?」
「ん? うん」
ユウは残りのビールをぐっと飲み干した。
「ヨッコイショ……」
コタツに手を突いてフラッと立ち上がる。
あー。ダメだ。思考がわけわかめ。ビールじゃそんな酔っ払わないのになぁ~……。
冷蔵庫を開けて数秒。ヒンヤリした空気に頭が若干スッキリした。缶ビールを二つ手にしてユウに話し掛ける。
「コタツでうたた寝は寝汗かいて風邪引くし。だから、ベッドで寝たらどうかなって……。枕買ったし」
あれ? ソファベッドで寝たらのソファが抜けたな。
ユウが目を丸くして振り返る。
俺って臆病なのかもしれない。いや、かなり臆病なんだろう。ユウから見つめられると頭がうまく回らなくなる。だから、ここから話してるんだ。
「ヒロ君がいいならいいけど。俺はソファでもコタツでも全然いいよ」
ほら、ユウだってベッドを寝室のベッドだと勘違いしてる。訂正しなきゃ。
リビングへ戻りビールを手渡し、俺は言った。
「俺は全然構わないよ。汚いおっさんと同じベッドに入るのはごめんだけど。って、そうじゃなくて、ベッドダブルだし、ユウなら狭くはないと思うし」
よし! 言い切った! 広いから大丈夫ってちゃんと言えた! ん? あれ? そうじゃなくね? ソファベッドのことだよって訂正するんじゃなかった?
ビールを受け取ったユウはサラリと言った。
「じゃあ、ヒロ君のとなり、お邪魔させてもらう」
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