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素顔

 朝方、尿意で目が覚めた。  う……おしっこ……。  仕方なく布団から出ると、ヒンヤリした冷気に凍えながらトイレへフラフラと歩く。  昨日いっぱい飲んだからなぁ~。うう……寒い。早くベッドに戻ろう。  手を洗い、廊下からリビングを見た。リビングもまだ暗い。きっとまだ五時くらいだろうか。 「……さむっ」  寝室へ戻りベッドへ滑り込む。隣のユウはスヤスヤと眠っていた。うつ伏せで、顔をこちら側に向けたまま。  隣に人が眠っている姿があるのは、なんかいい。少しだけユウの方へ体を寄せた。ピッタリくっついたわけじゃないけど、じんわりと右側が温かい。  人肌は気持ちいいよな……。うお?  ユウの右手がピクッと動いたかと思うと、俺の体に巻きついてグイッと引き寄せられた。  ひょっ!?  男だしそれなりの力強さがある。寄り添うどころじゃない。ぴったりとくっついてしまった。なんなら半身が俺に乗っている。  こ、これは……。  俺は仰向けのまま完全にホールド状態。手首を人質に取られたどころの騒ぎじゃない。  こんな体勢じゃ眠れないしっ!  胸に頬を乗せ、スヤスヤ眠っているユウ。俺は右腕をなんとか動かしてユウの枕を掴むと引っ張った。ユウの頭を枕と右腕で支える。  これは俗に言う腕枕ってやつだ。  右腕は体に乗っているけど、まぁこれは良しとしよう……。  すっかり目が覚めてしまった。でも、まだ三時間は眠りたい。  俺は目を閉じて、睡眠に戻ろうと試みた。  なのにユウはもぞもぞ近寄ってきて、肩にスリスリおでこを擦りつけ、足まで乗っけてきた。挙句、腰の辺りになんか違和感のある物体がゴリゴリ……。  ちょっ! そんなの押し付けてくんなよ! 分かるけど! これに意味がないことは分かるけど! 悪気がないことも!  俺は下半身をユウから離すため、体を横向きにした。足が外れたユウがさらにくっついてこないように肩を引き寄せると、ユウの髪が鼻をくすぐりシャンプーのいい匂いがした。顔を上げ、布団をグイと引っ張る。  やれやれ。  部屋がうっすらと明るくなってきた。  六時くらいだろうか。どうせ休みなんだから、まいっか。  しばらくすると、またウトウトしてくる。このまま眠れそうだ。  意識が沈むのに任せていると、俺の体に回していたユウの手が、ギュッと服を掴んできた。ユウを見れば、なんとなくだけど、眉間にシワが寄ってる。  腕枕している手とは反対の手で、ユウの背中をあやすようにポンポンと軽く叩いた。  ユウの頭がさらに近づいて、胸のところで頬をスリスリしてくる。  首だけで顔を上げ、ユウの顔を見ると、今度はなんともいえない穏やかな寝顔になっていた。 「…………」  起きている時はさっぱりした感じなのに、寝ている時はすごく甘えん坊……ってことは、こっちが本当の姿なのか。  妙だけど、母親にでもなった気分だ。  人とくっついていないと安眠できない。だから、常に誰かのそばにいたいのだろうか。だったら、昨夜のソファでの一人寝はずいぶん寂しかったに違いない。  左手でユウの背中をトントンとそっと叩き続けた。  他に誰もいないのなら、俺のところにいればいい。

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