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お正月
大晦日、二人でテレビを見ながら新年を迎えた。テレビの中で「新年明けましておめでとうございます」とにこやかに挨拶をする芸能人達。俺は隣のユウに缶ビールをぶつけて言った。
「明けましておめでとう」
「おめでとう。今年もお世話になります」
ユウは同じように缶をぶつけ、座ったまま深々と頭を下げる。
……も?
少しくすぐったく感じながら、当たり前のように言った。
「じゃあ、新年も明けたし、行く? 初詣」
ユウは俺がなんやかんや外出を提案すると、毎回嫌そうな顔をする。外に出るのが億劫で仕方がないらしい。そんなユウだけど、外出の際は、俺が言わなくてもニット帽をかぶる。外出は嫌いだけど、ニット帽は気に入ってくれたみたいだ。
今も「え~?」と言いながら渋々立ち上がり、ニット帽を掴むとおもむろに被った。俺はコタツに入ったまま言った。
「あは。冗談だよ! こんなクソ寒いのに!」
「へ? あ……そなの?」
ユウは立ったまま目をパチクリ。
「あ? 行く気だった? じゃ、本当に初詣行く?」
「ううん。ううん」
ユウは慌ててブンブンと首を振り、コタツに足を突っ込む。それにまた笑い、ユウのニット帽を取ると、乱れた髪を撫でた。
「年越し蕎麦食う? カップ麺だけど」
「一応ね。縁起物だし?」
「お? じゃあ食おう食おう。んで、お笑い番組観よう」
俺がキッチンへ行くと、なにをするわけでもないユウは俺のあとをくっついて回る。ふと、実家で飼っていた猫を思い出した。
スープの粉をカップへ入れ、ポットのお湯を入れる。ユウはうしろから俺の腰に手を回し、抱きつくような恰好でその一部始終を見ていた。かなり甘えんぼさんだ。
背中にくっついてるユウを振り返った。
「天ぷらはあとのせらしい。持ってって」
「うん」
気の抜けた返事。解かれない腕。ジーッとカップ麺を見てる。
寒がりなんだから、あっちで座って待ってればいいのに……。
そう思いつつ、そんなユウが面白くて、腰に回された手を握りながら三分待った。
「そろそろいいかな」
あとのせ天ぷらのビニールを破ると、ユウがやっと手を解く。それから食器棚から湯呑と急須を取り出した。
ユウは緑茶が好きだ。他になにも、料理を作ることも、カップ麺にお湯を入れることすら自分からはしないけど、お茶だけはせっせと自分で淹れる。お茶が好きだと聞き、早速買ってきた茶葉の入った缶を棚にしまいながら、思い出したようにユウが言った。
「そう言えばさ、ヒロ君ちのキッチンってちゃんと物が揃ってるね。未だ活躍してるところは見たことないけど……」
「あー? あははは。うんうん。俺はしないけど、たまにここで鍋やってたから。会社の友だちと。そいつが来た時に野菜とか下ごしらえしたのを持ってきてくれるんだよ。だから、俺は鍋とコンロとガスと、酒を提供するわけ」
「へぇ~、たまり場ってやつ?」
「たまり場って言うほどじゃないけど。同期は三人いるよ」
話しながらカップ麺を両手に持ってコタツへ運ぶ。ユウも淹れたお茶を二つ手に持ち続いた。
「いただきます」
手を合わせてテレビのチャンネルをお正月恒例のお笑い番組に変える。
今年の出場者はすごかった。どの芸人も面白い。ユウも声に出して笑わなくても、箸を持った手の甲を口元へ寄せ小さくクスクス笑っている。
「なんか今年はレベル高いなぁ~」
「ヒロ君はどれが好き?」
他愛のない会話をはさみながら、インスタントの蕎麦をすする。それだけでとても満たされた気持ちになった。
ユウはそっとカップ麺をコタツに戻すと、まだ蕎麦が残ってるのに急にコテンと俺にもたれかかってきた。鎖骨当たりにこめかみをスリスリする。
「あれ? 眠くなっちゃった?」
尋ねるとピタッと擦りつけてた頭を止め、そのままの体勢で見上げてくる。
「ひーろくんはにぶちーん、だーけど、あったかいんだからぁ~」
「ぷっ。懐かしいな」
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