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キスとゴム

 起きたら正午過ぎだった。  隣のユウにまた「おめでとうございます」と言いながら、ツルツルの頬にキスしてユウが目を開ける前にベッドから出た。  夜はそうでもないのに、昼間だと妙に恥ずかしい。  洗面所で歯磨きをしていたらうしろからかすかに声がした。鏡に映ったユウは顔を手のひらで拭い、指先で目頭を擦っている。 「お、おはおー」 「おはよお……」  歯磨きしながらユウのピンピコ跳ねている髪を掻き混ぜるように撫でる。ユウの頭は更に爆発して泡を吹き出しそうになった。 「ぶっ! ひょっぱほへん」  顔を洗面所へ突っ込み口を濯ぐ。タオルで口を拭き拭き。 「なにひとりで楽しんでんの」  ムッと尖っている口。その表情は俺のお気に入りだった。  タオルをちょっと濡らし、ユウの口元をちょんちょんと拭く。 「なに?」 「よだれのあとが……」 「あー、ありがと」  コクンと頷くようにお辞儀をして歯磨きをする。一心に鏡を見つめての歯磨き。柔らかそうな頬が膨らんでもっと可愛くなる。俺はうしろからユウの頬をハムと歯を立てず唇で噛んだ。お餅みたいで、歯を立てたくなる。  始めはされるがままだったユウ。だんだん眉間に皺を寄せてきた。 「うー、ほおいい?」  ハミガキしながらのユウの訴えも、お構いなしに気が済むまでハムハムして最後にチュッとキスして洗面所から逃げた。  キッチンで凍った長崎ちゃんぽんを火にかける。野菜がたっぷりだし、スープも凍らしてあって火にかけるだけだから便利だ。インスタントとちがって添加物の量も少ないだろうし……なんて、料理できないくせに考えていると、ユウが横に来た。「はい」と頬を向けてくる。 「ん?」 「どぞ」  さっきの続きを促してるユウが可愛い。しかも「して」じゃなくて「どぞ」って。  俺はちゃんぽんをコンロに置き、火をつけて小さくした。  それからユウの頬にチュッとキスする。何度も頬にキスしているうちに、唇は自然にユウの唇を求めた。  唇も頬と同じように柔らかかった。調理台にユウの体を押し付ける。啄ばむ様なキスを数回繰り返して、薄く開いた唇にそっと、ノックするように舌を滑り込ませた。  初めてのちゃんとしたキスはストロングミントの香りだ。  ユウは目を瞑っていた。俺の舌にペトッと当てられるユウの舌。潤っていてなめらかな肉の塊は、柔らかくて、触れ合うたびに脳がとろんと痺れるような陶酔感。  冷たい口内は、すぐにあったかくなって、爽やかなストロングミントはいつの間にかとても甘くなっていた。  俺はユウの舌をチュルッと吸い離すと、少し屈んでユウのお尻の辺りに両腕を回し、グイと体を持ち上げた。 「よっ」  持ち上げたユウの体を調理台へ座らせる。ユウの目線が俺より少し上になった。ユウの足の間に体を入れてキスを再開する。 「ふふ……けっこお、あいたん」  チュチュっと音を立たせ、俺の舌を舐めながらユウはキスの合間に嬉しそうに呟いた。  リビング側の窓を背にするユウ。カーテンを通して、柔らかな光が室内を満たしている。その柔らかな光とユウの微笑みは同じくらい俺の心を温めた。  愛しいとはこういう感情をいうのかもしれない。  俺はユウの首筋に吸い付き、耳裏に鼻先を突っ込んでユウの匂いを吸い込んだ。あんなに気にしていた体臭。人のも苦手だし、自分のも苦手だった。それが今はどうだ。その匂いに興奮している自分がいる。  今度は耳裏に吸い付く。柔らかな耳を唇で挟み、甘噛みした。ユウはくすぐったそうに首を竦めたかと思うと、更に首を傾け俺へ差し出してくる。白い肌。どこもかしこも柔らかそう。  耳たぶと首筋を往復する唇。  なにかが込み上げてきて、白い首筋を強く吸った。 「っう」  ユウが小さく呻き声を上げた。そっと唇を離すと白い肌に一枚の花びらみたいな痕。ユウの存在を表現しているような妖艶な痕。  コンロからバチバチとスープが沸騰している音がする。弱火で三分、沸騰したら強火で二分だったっけ?  すごくエッチな雰囲気にそぐわない、ちゃんぽんの美味しそうな匂い。  食欲と性欲を秤にかけて、火を止めてユウのパジャマを脱がそうと思ったけど、くう~っとなんとも間抜けで、ションボリと情けない音がした。俺じゃない。ユウがチロッと舌を覗かせた。 「お腹すいちゃった」 「あはは。だよな……焦げちゃうから食べようか」

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