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楠木への言い訳 3
「お~い。もうダウンかよ」
「う~ん……」
十二時を待たず、楠木はコタツでひっくり返ってしまった。
二人でコタツの上を片付け、楠木の肩へ毛布を掛ける。鍋の最後はコタツで雑魚寝もいつものことだった。
それにしてもよく飲んだなぁ。
いつもと同じ朗らか楠木だと思ったけど、もしかして実家でなにかあったのかもしれない。だからこっちに早く戻ってきたのかも?
すっかり爆睡している楠木の姿を見ながら缶を水で濯ぐ。
「今日はコタツ寝だね」
食器を洗いながらユウが言った。
「皿は洗えるんだな」
「やだな、皿くらい洗えるよ。いくつだと思ってんの?」
「最初は高校生かと思ったよ」
プッと吹き出す。
「補導されちゃうよ。それに高校生でもお皿は洗えるよ」
「いい大人になっても包丁持てないからなー。それは俺だけど」
「持つだけなら、俺もできるんだけどねえ」
「あははは」
楠木をチラッと確認してユウに顔を寄せる。顔を傾けチュッとキスをしてみた。クスッとユウが愛らしく笑う。
「意外と勇気あるんだね」
「おお。たまには俺だってなぁ。石橋を叩いてちゃんと渡る時もあるんだぞ?」
「叩いて渡らない時もあるの?」
キョトンとしているユウに言った。
「え? 基本渡らないぞ? 渡る想像をするだけだ」
「なにそれ、むっつり?」
肩を揺らして笑うユウは可愛いし、とても癒された。
缶を全部ごみ袋に入れ、皿を濯ぐユウをうしろから抱きしめた。サラサラな髪にキスする。
「ん~ん」
突然上がった声にチラリとコタツへ目を向ける。楠木はあんまり酒に強くないし、一度寝ちゃうとよほどのことがない限り起きない。
「寝言だね」
ユウは俺を振り返ってゆっくり顎を上げ、吸い付くようなキスをした。下半身が熱くなるようなキス。もっとしたくなる。でも、さすがにマズイ。隣で楠木が寝ているのにユウと寝室へ行くのは流石にマズイ。自制心を奮い起こし、ユウの耳元で囁いた。
「楠木が帰ったら、いっぱいしような?」
「いっぱい?」
「うん。いっぱい」
ふふっと笑って今度はユウが俺の耳元で囁いた。
「ヒロ君のエッチ」
いや、絶対ユウの方がエッチだって。言い方がエロいもん。
クラクラした頭で考える。
「じゃ、俺もコタツで雑魚寝するから、ユウはベッドね」
「へ? うん」
一瞬「あれ?」という顔をしたけど、ユウは頷いた。
「三人だと狭いし。それに……朝起きたら二人でくっついて寝てそうじゃんね?」
「そだね。ビックリしちゃうもんね」
ふんわり笑うユウにホッとした。
朝、いつもの如く猛烈な尿意で目が覚めた。
コタツに足を突っ込んで寝ていたから寒くはないけど、やっぱり汗をかいてる。トイレを済ませ水を飲み、着替えるためにそっと寝室のドアを開けた。
ユウはまだグッスリ眠っているだろう。
……え?
ユウはベッドの上で布団も被らず丸まって眠っていた。
エアコンが入りっぱなしだ。
スウェットに着替えてはいるけど、倒れたような無造作な姿勢。手には俺が買ってきた未開封のゴムの箱があった。
「…………」
俺はエアコンを切って、手から箱を取ると、サイドテーブルの引き出しに入れた。布団をユウに掛ける。下敷きにしている部分は掛けられないから、ワッフルで挟んだソーセージみたいになった。
頭を撫でた時、ユウの髪からシャンプーの香りがするのに気付いた。風呂まで入って俺を待っていたのだろうか? 楠木が帰ったらって言ったのに?
期待していたわけではないのかも。一人寝が寂しかったのかな?
「……ごめんな」
黙って待っていたユウの気持ちを思うと胸がキュンキュンした。
「あれ? ココにいたんだ」
背後から突然聞こえた楠木の声に、俺は慌てて立ち上がり、自分の体でユウを隠しながら寝室から出た。
「よう。おはよ」
楠木が寝癖でボサボサの頭でだるそうに言った。
「あの子どこいったの? ユウ君?」
「ああ、コタツが狭いからって、ベッドで寝てたよ。風呂入るか? サッパリしたいだろ」
「ベッド? いつもはどこで寝てるの?」
俺の問い掛けは完全スルーされてしまった。
「いつもはコタツだよ。昨日は俺らが占領しちゃったから」
「ふーん……あ、じゃあ、汗かいたし、シャワー借りていい?」
俺の話もちゃんと聞いていたらしい。
「ああ。タオル適当に使ってくれればいいから」
「ありがと~」
楠木はいつもの屈託のないニコニコ顔で風呂場へ行った。俺はその間に顔を洗い、歯磨きして服を着替えた。いつもなら昼頃までダラダラと一緒に過ごすのだけど、楠木は風呂から出るとすぐに帰る準備を始めた。
「コーヒーくらい飲んでいけよ」
「ありがと~。でもいいよ。ちょっと寄りたいところあるし」
「そっか……」
ユウはまだ眠っていた。
昨夜、眠らないで俺を待ってたかもしれないから、そっとしといてやりたい。駅まで送るだけだし、起こさずに行こう。
楠木と外へ出て、寒さに首を竦める。
旅行鞄を荷台に乗せる時、お土産に入れたビールのせいで鞄が重いと楠木が笑いながら文句を言った。
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