30 / 51

楠木への言い訳 3

「お~い。もうダウンかよ」 「う~ん……」  十二時を待たず、楠木はコタツでひっくり返ってしまった。  二人でコタツの上を片付け、楠木の肩へ毛布を掛ける。鍋の最後はコタツで雑魚寝もいつものことだった。  それにしてもよく飲んだなぁ。  いつもと同じ朗らか楠木だと思ったけど、もしかして実家でなにかあったのかもしれない。だからこっちに早く戻ってきたのかも?  すっかり爆睡している楠木の姿を見ながら缶を水で濯ぐ。 「今日はコタツ寝だね」  食器を洗いながらユウが言った。 「皿は洗えるんだな」 「やだな、皿くらい洗えるよ。いくつだと思ってんの?」 「最初は高校生かと思ったよ」  プッと吹き出す。 「補導されちゃうよ。それに高校生でもお皿は洗えるよ」 「いい大人になっても包丁持てないからなー。それは俺だけど」 「持つだけなら、俺もできるんだけどねえ」 「あははは」  楠木をチラッと確認してユウに顔を寄せる。顔を傾けチュッとキスをしてみた。クスッとユウが愛らしく笑う。 「意外と勇気あるんだね」 「おお。たまには俺だってなぁ。石橋を叩いてちゃんと渡る時もあるんだぞ?」 「叩いて渡らない時もあるの?」  キョトンとしているユウに言った。 「え? 基本渡らないぞ? 渡る想像をするだけだ」 「なにそれ、むっつり?」  肩を揺らして笑うユウは可愛いし、とても癒された。  缶を全部ごみ袋に入れ、皿を濯ぐユウをうしろから抱きしめた。サラサラな髪にキスする。 「ん~ん」  突然上がった声にチラリとコタツへ目を向ける。楠木はあんまり酒に強くないし、一度寝ちゃうとよほどのことがない限り起きない。 「寝言だね」  ユウは俺を振り返ってゆっくり顎を上げ、吸い付くようなキスをした。下半身が熱くなるようなキス。もっとしたくなる。でも、さすがにマズイ。隣で楠木が寝ているのにユウと寝室へ行くのは流石にマズイ。自制心を奮い起こし、ユウの耳元で囁いた。 「楠木が帰ったら、いっぱいしような?」 「いっぱい?」 「うん。いっぱい」  ふふっと笑って今度はユウが俺の耳元で囁いた。 「ヒロ君のエッチ」  いや、絶対ユウの方がエッチだって。言い方がエロいもん。  クラクラした頭で考える。 「じゃ、俺もコタツで雑魚寝するから、ユウはベッドね」 「へ? うん」  一瞬「あれ?」という顔をしたけど、ユウは頷いた。 「三人だと狭いし。それに……朝起きたら二人でくっついて寝てそうじゃんね?」 「そだね。ビックリしちゃうもんね」  ふんわり笑うユウにホッとした。  朝、いつもの如く猛烈な尿意で目が覚めた。  コタツに足を突っ込んで寝ていたから寒くはないけど、やっぱり汗をかいてる。トイレを済ませ水を飲み、着替えるためにそっと寝室のドアを開けた。  ユウはまだグッスリ眠っているだろう。  ……え?  ユウはベッドの上で布団も被らず丸まって眠っていた。  エアコンが入りっぱなしだ。  スウェットに着替えてはいるけど、倒れたような無造作な姿勢。手には俺が買ってきた未開封のゴムの箱があった。 「…………」  俺はエアコンを切って、手から箱を取ると、サイドテーブルの引き出しに入れた。布団をユウに掛ける。下敷きにしている部分は掛けられないから、ワッフルで挟んだソーセージみたいになった。  頭を撫でた時、ユウの髪からシャンプーの香りがするのに気付いた。風呂まで入って俺を待っていたのだろうか? 楠木が帰ったらって言ったのに?  期待していたわけではないのかも。一人寝が寂しかったのかな? 「……ごめんな」  黙って待っていたユウの気持ちを思うと胸がキュンキュンした。 「あれ? ココにいたんだ」  背後から突然聞こえた楠木の声に、俺は慌てて立ち上がり、自分の体でユウを隠しながら寝室から出た。 「よう。おはよ」  楠木が寝癖でボサボサの頭でだるそうに言った。 「あの子どこいったの? ユウ君?」 「ああ、コタツが狭いからって、ベッドで寝てたよ。風呂入るか? サッパリしたいだろ」 「ベッド? いつもはどこで寝てるの?」  俺の問い掛けは完全スルーされてしまった。 「いつもはコタツだよ。昨日は俺らが占領しちゃったから」 「ふーん……あ、じゃあ、汗かいたし、シャワー借りていい?」  俺の話もちゃんと聞いていたらしい。 「ああ。タオル適当に使ってくれればいいから」 「ありがと~」  楠木はいつもの屈託のないニコニコ顔で風呂場へ行った。俺はその間に顔を洗い、歯磨きして服を着替えた。いつもなら昼頃までダラダラと一緒に過ごすのだけど、楠木は風呂から出るとすぐに帰る準備を始めた。 「コーヒーくらい飲んでいけよ」 「ありがと~。でもいいよ。ちょっと寄りたいところあるし」 「そっか……」  ユウはまだ眠っていた。  昨夜、眠らないで俺を待ってたかもしれないから、そっとしといてやりたい。駅まで送るだけだし、起こさずに行こう。  楠木と外へ出て、寒さに首を竦める。  旅行鞄を荷台に乗せる時、お土産に入れたビールのせいで鞄が重いと楠木が笑いながら文句を言った。

ともだちにシェアしよう!