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馬油(ばーゆ)
「ヒロ君……無理しなくていいから」
「でも、こんな小さいし……ちゃんと濡らさないと痛くない?」
ユウは肘を突いて上体を軽く起こし、なにを見るわけでもないのに一点を見据えた視線で「んー」と考え、ぼそっと言った。
「久しぶりだしな……」
久しぶりなんだ。
「じゃあ、やっぱりちゃんと濡らさないと」
俺はユウの腰を掴むとグイと引っ張った。ユウの上半身がコロンとベッドへ落ちる。コップの破片をチェックしたいつぞやの時みたいだ。
「あ、待って! ヒロ君初めてなんだし、他ので代用すればいいよ」
「なにで?」
「なんでもいいんじゃない? 滑りさえ良くすれば。バターとか、油とか? 持ってないでしょ? ローションとか」
なるほど……ローションが必需品なんだ。そういやドラッグストアに売ってたな。今度買ってみよう。
「バター……油……! ちょっと待って」
俺はリビングへ行くと、お土産で貰った小さなクリームを手にして寝室へ戻った。
「これ! 馬油! ハンドクリームなんだけど、すごくしっとりするんだよ。これ使えるよね?」
「ばーゆ? わかんないけど、大丈夫じゃない?」
「うんうん」
俺は蓋を開けて半透明の白くてちょっと固いクリームを人差し指で掬った。体温でどんどん半透明が透明になっていく。
いい感じだ。これならきっと大丈夫。
その馬油でしっかり濡らしたテカテカの指を押し込む。回転させて押し込んだ指を包み込む内部がさっきよりヒクヒクしているようだった。
「どう?」
「っん、きもちいかも……」
そう言って甘えるように片手を伸ばしてくる。俺は左手でユウの手を握りながら、指をグルグルと回し中をかき混ぜた。さっきよりもっと熱く柔らかくなったみたい。
「う、ぁっ……っは」
みるみる頬を赤らめてくユウが握る手に力を込める。
エッチな顔。
ドキドキしながら、指を抜くと今度は中指を馬油の中にブスッと差し込んで、馬油を掬いながら抜くと、二本の指を捩じ込んだ。
「んんっ」
ギュウギュウに締め付けてくる。確かにここに入れたら気持ちいいかも……。中熱いし、トロトロだし。
「ひろく……なんか、変だよ……」
「ん? ……あ……」
俺はハンドクリームの成分表を見て愕然とした。馬油と……メントールって書いてある。メントールって……。
「う……、なん、これ……チリチリ熱い……」
粘膜にメントールって! ヤバイ!
「あ、そ……そっか……」
きゅうううっと体を縮めていくユウ。
ど、どうしたらいいんだろう?
「ぁ……」
声を上げ視線をちらちらと左右に漂わせたユウが、下唇を噛むようにして首をすくめる。顔が赤い。腰がうねり始める。
「く……なんか、へんちょっと、ん……痒い」
弱々しく懇願するように俺へ視線を向け、小さな声で言った。
「ね、掻いて……」
「あ、う、うん」
焦った俺は中に入ってしまった馬油を掻き出すように指先を軽く折って、ユウの中から出した。
「ひ!」
二本の指を出し入れすると、ヌチョッといやらしい音がする。
「ん、……んぁっ」
「ど、どう?」
眉を垂らし、潤んだ瞳がキラキラと光ってる。コクコクと頷き「もっと」と訴えるユウ。指の動きを早くしても、足りないとでもいうように内部の締め付けが激しくなる。
体をくねらせ単発の音を発しながら、ユウが懇願の眼差しを向けた。
「っは、あ、あっ! んっっ! ぁう、も、や……熱いっ、っはぁ、ん、ヒロ君のでっ!」
「う、うん」
俺は急く気持ちのままゴムを装着して、悶えるユウの足を開いた。
「入れるよ……」
「ん!」
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