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対決 4
生涯? 保証?
今までの話の流れから外れた突飛な単語に疑問が湧いた。
「未来の約束に保証なんてありますか? あなたはそのつもりかもしれないけど、明日、交通事故に遭ってあなたが亡くなったら? ユウにとって大事なのは保証ではありません。ひとりで生きて行ける自立を覚えることです。本当にユウを想うのなら、あなたがすべきことは支配して囲うことじゃなかった。ユウが自立できるような手助けだったのではないですか?」
男の眉間のシワがますます深くなる。
「話している次元が違う。私は優太を傷つけたくないんです。自立に固執するあなたに任すことはできない。聞けば聞くほどにね。あいつを知らないんでしょ? あいつの孤独も知らない。だから一般論でしか話をしないんでしょう」
「過去は過去です。誰にでも過去はあります。過去に縛られる生き方しかできない人間も、過去を乗り越える人間も、様々です。もしユウが過去を乗り越えて成長できた時には、自然に僕に話してくれるんじゃないですか? 一般論と言いますが、これは全てユウと暮らして感じていることです」
男はかなり苛立ってきているようだった。強い視線を向けてくる。
「返さないと言うのなら、それだけの覚悟を見せて欲しい。と言っているんですよ」
いつまでも平行線だ。いい加減に席を立ちたい。それを堪えてグッと拳を握った。
どう言ったらこの男は理解するんだ。
「だから……返す、返さないじゃないと言ってる。ユウは物じゃない。ユウはあなたの所有物じゃない。例え、血が繋がった肉親だったとしても、ユウの行動を決めるのはユウ自身です。人の話をもう少しまともに聞いたらどうです?」
「本当に埒の明かない会話だ。そちらこそなにも話を聞いていない。私達がなにを大事にしているのか理解できませんか? 家族ですよ」
男はグイッとコーヒーを飲みカップを下ろすと、椅子へドサッと背を預けた。「ふう」と一呼吸置いて腕を組み、チラリと視線を宙へ向ける。
「……俺達は親なしです。児童養護施設で育った。優太に至っては自分の親の顔も知らない」
男は意を決したように話し始めた。
「俺が見つけたんですよ。朝方、施設の門の向こう側で犬や猫みたいに段ボールに入っているのを。泣き声で気づいたけど、それは赤ん坊のデカイ泣き声なんかじゃなかった。蚊の鳴くような小さな声だった。物音に容易にかき消されるような。夜中に捨てられたから体は氷のように冷たく、冷え切っていた」
男は空になったカップへ目を落とし、水の入ったコップを手にした。まるで突き上げる感情を抑え込むように水を飲む。
「施設といってもドラマやなんかであるような温かい家庭的な場所じゃなかった。衣食住、最低限の教育は与えられたけど、子供の人数だって多い。職員はあくまで職員が。事務的対応だよ。家族とは到底言えない中で暮らしていた。俺は見つけたその日からずっと傍にいて守ってきました。優太だけを見て。あいつにとって俺が唯一の家族なんです」
「…………」
想像もしていなかった過去に衝撃を受けつつ、俺は静かに続きを待った。
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