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対決 5
「あいつが小学校三年の時、俺を引き取りたいと言う人間が現れた。結構な大金持ちでね。一人息子がいたが与えられたエリート街道を歩めずストレスで自殺をしたらしい。俺はその息子の代わりだった。年齢も性別も学力も先方の望む条件をクリアしていた俺を是非にということだった。優太も連れて行きたかったけど、自分の息子に重荷を負わせ死なせたあげく代わりを求める連中だ。望まれぬ優太が幸せに過ごせるわけがないのは目に見えていた。優太と離れたくはなかったけど、俺には優太を一生守っていく土台が必要だった。自分が生きるので精一杯じゃお話にならない。優太には必ず迎えに来ること、会いに来ることを約束し、俺は養子を承諾した」
目の前の男がユウを真剣に想っていることがヒシヒシと伝わってきた。ユウにとって、この男だけが唯一信じられる存在だったことも想像できた。
「優太と毎週の面会を欠かすことなく、俺はあの人達の期待以上の高校、大学へ進み用意されていた会社にも入った。あの人達の希望通りのいい息子を演じ、信頼を得た上で、だいぶ寂しい思いをさせたけれど、施設を追い出される高校卒業前に、優太を迎えに行くことができた」
「……なるほど」
「離れていた間、あいつは約束通り俺を待ち続けたよ。人に迷惑や心配をかけることなく、周りにはそれなりに振る舞ってね。誰にも心を開かず。九年ひたすら待っていた。優太が望む物は自立じゃなく、家族です」
二人の強い絆に、歴史に、正直心は揺れた。
でもその話が真実なら何故?
「……では、なぜ、ユウはあなたから逃げ出したのですか?」
俺の問いに、男は苦虫を噛み潰したような表情になった。
「許嫁 のせいでしょう。誤解するように仕向けられたんだと思います。しかしそれは問題ない。結婚などする気はない。それなりの地位とお金、信用も得ている。もう養父達から離れても優太を守っていくことはできる」
「結婚する気がないのに婚約者がいるのはなぜです?」
「学生のうちに用意されていたってことです。まだ刃向える時期ではなかった。それだけですよ」
男は「大したことじゃない」と鼻で笑うように言ったけれど、やっと理由が分かった気がした。
「……ユウはあなたに、本当の家族を持ってほしかったんじゃないですか?」
俺の言葉に、男はため息を付くような表情を見せたけど、先ほどまでの強い反論はなかった。
「あなたの血を分けた子供。全力で守るべき存在の妻と子供。あなたが愛情で包まれる温かな家庭。そして、産まれてくる子供は、両親に心から愛されるべきだと思ったのではないですか?」
男はバカではない。俺の言葉も届いていると思えた。
でも強い視線は変わらなかった。
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