50 / 51
対決のあと
込み上げるものを押し殺し、ユウに微笑むと玄関へ向かう。鍵を差し込みドアを開けた。
「おかえり~」
どんな勢いで降りてきたのか、もうユウは目の前に立っていた。我慢できず、俺は靴を履いたままユウをギュッと抱き締めた。
「うわお」
ユウの肩に顔を埋め、滲んできてしまう熱を隠す。
「ヒロ君?」
「ん……。ただいま」
泣いているのを悟られたくなくて、強くユウを抱き締め続けた。
「うん。おかえり」
背中に回される手。寄り添うようにユウの頭がくっつく。
余計に苦しくなる。ユウの肩に顔を擦り付け涙を拭った。
背に回された手がトントンと背中を軽く叩き俺をあやしてくれる。まるでぐずる赤ん坊を寝かしつける母親のようだ。離れがたくて、肩に顔を埋めたまま名前を呼んだ。
「……ユウ……」
「ん?」
「……腹減ってないか?」
「食べに行く?」
「ああ。……車で行こうか? 寒いから、上着持っておいで」
鼻を啜って顔を上げ、笑顔を作る。
ユウはそんな俺を見てムニッと口角を上げ、微笑みながら「うん」と頷いた。
「なにが食べたい? 寿司がいいかな? それとも肉?」
車を走らせながら助手席のユウへ話しかける。
「んじゃ肉で」
「オッケー」
いつもの「なんでもいいよ」じゃなくて、珍しくちゃんとチョイスした。特別、肉好きってわけでもないのに……もしかして俺を元気づけようとしてる?
いろんなトッピングが楽しめるステーキ&ハンバーグの店へ車を走らせた。サラダバーやドリンクバーもあって日曜日ならファミリーでいっぱいの店だ。
食欲なんてまったく無かったけれど、腹を撫でながらメニューを広げる。
「好きなもの頼めよ。俺は和風おろしバーグにしようかな」
「これにしよー。唐揚げ&ハンバーグ」
メニューを指さしハキハキと即答する。
「うんうん。ハンバーグは普通サイズでいいのか?」
「いいよー」
「サラダバーあるから、野菜も食おうな」
「はーい」
素直な返事。
思わずクスッと笑ってユウの顔をジッと見つめる。
ツルツルの肌も、上品な小さな唇も、ふっくらとした頬も、素直な髪も、俺を見つめるまっすぐな瞳も、全部覚えておこう。
出会った頃のユウは掴みどころのない雰囲気だった。
公園での無謀な野宿も、今思えば「なんとかなる」という前向きな発想じゃなかったのだろう。ただ、あの男の前から自分の存在を消してしまいたかった。それだけが公園にいる理由だった。そうだよね?
「今日はなにしてた?」
食事をしながら他愛もない話をする。
いつもはすぐに運ばれてきた料理をガツガツと食べてしまうけど、今日はゆっくり食事をしようと思った。
ともだちにシェアしよう!