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第14話 その香りに絆される

「確かに近いけど」  荒城の事務所で和美はぽつりと呟いた。  結局、発情期があけてから、荒城から危ないから、俺が守るからと、説得されて、しかも山形からもその方が安全でしょう。と言われてしまい、荒城の部屋に引越しをさせられた。  バイト先のコーヒーショップに近いから、夏休み中の通勤も安心安全なんて、言われたけれど・・・  荒城の事務所が入っているタワマンの、上の方に荒城の住む部屋があった。 「夏休みが終わったら、毎日送り迎えするからな」  荒城がそんなことを言ってきて、和美はちょっと嫌な顔をした。 「なんだよ」 「だって、あの赤いベンツ」  目立ちすぎた。地味に控えめに生きていきたい和美からしたら、大学に送迎されるだけでも大事なのに、それがしかも赤いベンツで、運転するのがアルファなのだ。 「おまえが誰のものか、ハッキリ分かっていいだろう」  荒城があっさりとそんなことを言うから、和美は言葉にならない声を口の中で潰すしかない。 「ホントはなぁ、危ないから隠しちまいたいんだけどなぁ、大学もあるしなぁ」  そう言って、荒城は和美を後ろから抱きしめた。アルファらしく体格のいい荒城が後ろからくると、平均身長程しかない和美は、その腕の中に治まってしまう。 「俺は絶対に、番わないからな」  耳元に荒城の息遣いがして、和美は思わず口にした。 「分かった、分かったから、コレに取り替えてくれないか?」  荒城がおもむろに箱を見せてきた。 「なにこれ?」  目の前に出された箱を素直に受け取って、和美は考え込む。見た事のあるブランドのロゴが箱の中央に刻印されている。ずいぶんとしっかりとした作りの箱だ。  背後を荒城に抱きしめられたまま、和美は受け取った箱の蓋を開けた箱の中には見慣れたモノが入っていた。 「え、と?」  施設のネックガードばりに性能が、良さそうだ。 「俺のオメガって……なぁ」  荒城の腕の拘束が少しきつくなった。けれど苦しくはない。 「噛ませてくれなくてもいい。でも、俺に守らせてくれ」  耳元で懇願するように言われれば、自然と耳が熱くなる。  嫌じゃない。  嫌いじゃない。  そんなんじゃない。 「オーダーメイド?」  和美は、箱の中にあるネックガードをみて、荒城に問うた。 「ああ、そうだ。お前に内緒で作ったのは悪かった」  背後から、そんな詫びをいれられて、和美は何となく理解した。 「お前と俺が揃わないと解錠出来ない」  荒城が割とすんなり、とんでもないことを言ってきたので、和美の思考が一瞬止まる。 「え?」  驚いて振り返ったら、そこには荒城の顔があって、認識したときにはもう唇が重なっていた。驚きのあまり手にしていた箱を落としそうになったけれど、荒城がしっかりと押さえていた。 「んっ………っ」  ゆっくりと唇が離れて、荒城と目が合った。悪びれていない荒城は、和美の口の端を舌で舐めた。 「寝ている時に指紋をとった。右の親指と人差し指だ」  和美が、黙って見つめていると、荒城はさらに続けた。 「俺がいないと外せないようにしたのは、今回みたいな事がまたあった時の対策だ。一人で解錠出来たら、危ないだろう?」  最もらしいことを言われたけれど、要するに荒城のオメガだと知らしめたいわけだ。それと、他の誰かに番契約を強要されないため。 「分かったよ。施設出ちゃったし、あんたに面倒見てもらわないと大学にも通えないから」  そう言って、和美は荒城の方に体を向けた。  ネックガードの入った箱は、そのまま荒城に持っていてもらう。そうして、正確な位置に自分の両の指を押し付けた。  毎日、風呂に入る前にしている事なので、別段難しいことは無い。けれど、誰かの前で外すのは初めてだ。 『唯一と心に決めた人の前でだけ、外すんだからね』  そう、何度も施設の人に教えられてきた。医者にも看護師にも、もちろん山形にも。  発情期を初めて迎えてから、ずっと着けてきたネックガードだ。空調のよく効いた室内では、なんだか急に襟元が寒く感じた。もしかすると、空調の風がほんとうに当たっていただけかもしれないけれど、急に不安になったのは確かだ。 「噛んでも無駄だよ」  ネックガードを外した和美の首元に、荒城の鼻が近づいていた。項の匂いを嗅いでいただけかもしれないけれど、和美は笑いながら言ってみた。 「知っている」  荒城は、そう答えて和美の首元をひと舐めした。 「ひゃっ」  思わず和美が、首をすくめると、荒城は楽しそうに笑った。 「いつかは噛ませろ」  そう言って、荒城は新しいネックガードを和美の首に巻き付けた。 「ヤダよ、俺は母さんみたいになりたくない」  和美が下を向いて頭を振る。  荒城は、和美の退所手続きをした際に、山形からある程度聞かされていたから知っていた。  和美の母親は番のいるオメガだった。それなのに、わざわざコテージに一人で戻ってきて、和美を産んだのだ。そして、三歳児健診で、和美がオメガだとわかったら、書類にサインをして所謂手切れ金をてにしてコテージを出ていった。金が目的だと当時の職員は分かっていた。コテージでの、出産歴があるオメガだったからだ。  アルファを産んだ時は子どもと一緒に出ていったのに、オメガだった時は金を貰って一人で出ていく。履歴があるから、どこのコテージを使おうと直ぐに身元が分かるのだ。それなのに、そんなことを繰り返している。  問題のあるオメガだと、職員たちの間では噂されていた。施設の利用歴が出産の時だけなので、アルファの父親がいるのだろうと推測されていた。アルファ至上主義の名門か、裏社会の関係か。  そんな母親から産まれたから、和美は番に対していい印象を持っていなかった。 「お前のこと、一生面倒みてやるからよ」  金属の絡まり合う音がした。  アルファとの契約がなされた。 「一生?番いにならないのに?」  和美が、荒城の目を覗き込むようにして言う。  其れは確認。 「気が変わるかもしれねぇだろ?運命だからな」  荒城に見返されて、一瞬和美がたじろいだ。 「俺の母さんのこと、聞いたんでしょ?」 「ああ、聞いた。アルファ至上主義か、裏稼業の下っ端ってとこだろう」  荒城が鼻で笑う。 「そんなのと一緒にしてもらっちゃ困るんだよ。こう見えても実業家なんだぜ?不動産経営だってしてるんだ、お前のやりたいコーヒー屋ぐらいどこにだって作ってやる。飲食店だって経営してんだ、働きたいなら好きな店に入れてやる」  荒城がサラッと言ってきて、和美は目を丸くした。確かに、この事務所は、一見普通の事務所にしか見えない。手前の部屋では、よく見る事務所らしく事務作業をする人が数人働いていた。 「えっ、と…土地転がし的な?」 「おいおい、いつの時代だよ」  そう言って荒城は笑った。  やはり和美の、知識は片寄っている。おそらくは映画や小説の世界から得たものなのだろう。 「俺の経営する店はちゃんと風営法を遵守してるよ。  働く嬢だって無理なんかさせちゃいねぇ」 「嬢?」  荒城の口から出てきた言葉。この間はお嬢だったけど、今度は嬢だ。 「風俗関係で働く女のことを嬢って呼ぶんだよ」  荒城はそう言って、和美の髪を撫でた。教える必要はないけれど、知っておく必要はあるだろう。 「そもそも、お前はどこで働くつもりだったんだ?コーヒー屋なんて、匂いが強いけれど、クレーマーベータなんかにバレたら一溜りもないだろうが」  和美がバイトをしている店は、オーナーがオメガで番のアルファがいるから、スメハラと称してクレームをつけてくる輩がいないだけだ。和美を裏方作業に就かせているのもそのため。 「…コテージの」  和美が小さな声で言う。 「コテージのバーカウンターで」  それを聞いて、荒城は呆れた。  コテージで産まれて、コテージで育って、コテージで働いたら、一生コテージで終えることになる。 「なんだよ、それは」  荒城は自分の頭を少し乱暴にかいて、考える。 「そんなのは、、前向きのようで後ろ向きだ。確かにベータにかかわらなければ、嫌な思いはしないけどなぁ」  言われて和美は下を向いてしまう。なんだかんだと不満を持ちながらも、安全で、むずかしく考えないで生きていける方を選んでいる。 「そんな顔すんな、言ったろ?俺が一生守ってやる」  まるで子どもをあやす様に言われて、和美の首元が赤くなった。そこから、アルファを誘う匂いが溢れる。 「あー、何してくれてんだ。こんなこと、俺以外のアルファにしたら、どうにかされちまうぞ」  下を向いた和美の、顎を掴んで上を向かせる。恥ずかしくて和美の顔はだいぶ赤くなっていて、目はいつもより潤んでいた。 「そんな顔して、仕置だな。仕置だ」  つけたばかりのネックガードの上から、荒城が首元を噛み付くように舐めた。 「うぁぁぁ」  おどろいて悲鳴を上げる和美を、荒城は軽々と持ちあげた。そうして、部屋の扉の鍵を素早くかける。 「な、な、な、な、に」 「仕置だ」  商談用なのか、大きくて座り心地の良さそうなソファーに和美を下ろした。 「アルファに守られるって事をじっくりと教えてやるよ」  そう言って、荒城は楽しそうに和美の耳朶を舐めた。和美の耳はもとより、ネックガードに覆われている首筋も、随分と赤く色付いていた。色の白い和美は、血管も、その薄い皮膚からハッキリと、分かるほどになっていた。  荒城はその血管を辿りながらゆっくりと舌を這わせて、進路の邪魔になる和美の衣服を剥がして行った。 「ぬっ、脱がすなぁ」  シャツのボタンが全部外された頃、ようやく和美の口から抵抗の言葉が出てきた。けれど、それがもはや本心からでは無いことぐらい、荒城は分かっていた。 「仕置してやるから、覚悟しろよ」  口だけの抵抗をする和美が可愛くて仕方がなくて、荒城は思わず自分の唇を舐めた。そうやって自身を落ち着かせようと努力する。  けれど、荒城のフェロモンを感じて色付いてしまった和美を前に、どうにもその努力が集結する気がしない。 「仕置されたがってんなぁ」  和美の胸にある二つが、荒城がまだ何もしていないのに赤く色付いている。たとえそれに和美本人が気づいていなかったとしたら、その事を教えてやるのが仕置をする荒城の務めだろう。 「はぁ、ちが……ちがう」  ソファーの上で和美は、両手をどうしていいのか分からなくて、顔の両脇で握りこぶしを作っていた。  そんな状態がまた可愛くて、荒城は上から見下ろしながら和美の、下履をゆっくりと外していく。  腹の辺りをゆっくりと撫でて、臍の窪みを指の腹で撫でると、和美の意識がそちらに向いたのか、主張を始めた下半身が、外気に晒されたことに気づいていない。 「随分喜んでんなぁ」  外気に晒されたせいで、先程までは下着に吸収されていた流涎りゅうぜんが、和美の肌を伝ってソファーに落ちていく。  荒城の指が、和美の頂から滴る流涎を纏わせながら下へと移動して、赤く色づく控えめな花の花弁を揺らした。 「あっ、イヤだ」  そうは言っても、和美の両手は相変わらず顔の両脇で握られたままで、口にした言葉とは裏腹にただ握る指に力が入るだけだった。  荒城はそれを確認しながら、花弁を指でなぞり、その中心の蜜を求めるようにゆっくりと指先を押し付けた。 「っぅん」  荒城が蜜を求めるように動くから、花である和美も誘うように動く。蜜蜂と花のようにではなく、蝶と花のような関係だ。蜜を求める蝶の口吻こうふんのように、蜜を求めて伸びていく。  そうして伸びて胎内に入った荒城の指は、和美が蜜を垂らすのに最適な場所を探り当てた。 「ここなぁ」  荒城がそう言いながら和美の、顔をのぞきこんだ。 「えっ、あっ、そこ…は」  和美の体が小刻みに揺れるのを確認すると、荒城は空いているもう片方の手のひらをが、和美の下腹部に当てた。 「こうすると、どうだ?」  荒城の親指の付け根の辺りが、和美の下腹部を圧迫する。皮膚の上から押される手のひらと、胎内から蜜を求めるように動く指とが、和美の薄い腹を挟み込むと、得体の知れない刺激が和美にやってきた。 「あっ、やぁあ、な…なぁ」  むず痒いような何かが、それでも嫌ではなくて、むしろもっと欲しいような、もどかしい何かを和美は感じ取っていた。 「仕置だからなぁ、ここだけでいけよ」  荒城は和美の反応を確認しながら、手のひらで与える圧迫に強弱をつける。 「ひんっ……っんぅ」  荒城の手の動きに合わせ、和美の腰が揺れて、自身の胎内にある荒城の指を探り当てようとする。仕置と言うだけに、荒城はそんな和美を上から眺めるだけだ。 「頑張るじゃねぇか」  両手を握りしめたまま、荒城の下で腰を揺らす和美は、最後の一手が見つからなくて荒城を必死で見つめていた。 「も、もぉ、もぉ」  限界のところで放置されて、和美はもどかしい。けれど、仕置と言う荒城は、そんな和美をただ眺めているだけだ。 「どぉして欲しいんだ」  荒城が和美の耳元で尋ねる。 「もっ、もっ、もぉ…しぃ、てぇ」  和美が言い終わるやいなや、荒城の手が和美の薄い腹を中と外から押さえつけた。 「ひゃっ」  跳ねるように反応すると、和美はそのまま身体を小刻みに震わせ続ける。それを眺めながら荒城の手のひらが、和美の下腹部を丹念に押し続ける。 「あ、ぁぁあ、んっ、なんでぇ……っぁあ、あぁ」  止まらない刺激のせいで、和美はずっと高みに連れていかれたままだ。荒城はそんな和美を眺めながら、何度も唇を舐めた。

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