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あずさ 寂しい

血管を見つけた樹医師はあずさに微笑みかけ 「いい血管がありました。良かったね。消毒しますよ」 「は、はい」 あずさは怖さを逃そうとぎゅっと紅葉の手を握った。 冷たいと思った瞬間、感じたチクっという独特な痛み。 「い゛っ…痛いよ」 たしかに手の甲より痛くないけど痛い… 「ごめんね。後少し頑張ってあずさくん」 「う~…ふ…っぅ…っひく…っやっぱり怖いぃ」 「あー…泣いちゃいます?」 「樹先生が痛くするから!」 「え、紅葉。私はかなり気をつけて刺しましたよ?少しばかり痛いのは仕方ないんですが…」 「弱ったなぁ…この子、樹先生。出産時大変ですよ?」 「それはまた考えよう。はい、おしまいです。よく頑張りました」 「う、うん…」 「お腹空きましたよね?あずさくん。ご飯にしましょう」 「ご飯…」 「あずささん少し待ってね?お部屋に運ぶから」 「分かった」 樹医師と紅葉が部屋からいなくなるとあずさはポタポタと落ちる点滴を眺め、まだ止まらない涙を点滴とは反対の腕で拭った。 ・ ・ それからしばらくし、待ってね、というほど待たされずに紅葉が食事を運んできてくれた。 「すごい量…これ、1人前?」 「あ。泣き止んでた。良かった。料理の量驚くよね?産後は授乳のためにこれくらい食べなきゃいけないんだよ?」 「じゅ…じゅにゅうって…」 「んー…おっぱい?」 「おっぱい…出るの?」 「もちろん」 あずさは驚いて、自分の胸を触った 信じらんない… 「無理に全部食べなくていいけど、食べ終わったらステーションの棚まで返しに来てね?ごゆっくり」 「ありがとう」 紅葉が部屋から出ていき、マジマジと食事を見るとサラダからメイン、サブ、パンにスープ、デザートと本当にすごい量… 「太っちゃうよ」 少しずつ手をつけるけど食が進まない… 静かすぎる…… 落ち着かないな みんなで楽しく食べるのがこの3ヶ月当たり前だったから。 早くみんなに会いたい。 あずさは3分の1ほどを食べてステーションへと点滴スタンドを押して食べ終わったおぼんを片付けにきた。 すると、あずさよりもかなり小さい女の子のような見た目の子で茶色のふわふわした髪の子が背伸びしておぼんを返そうと頑張っていて、あずさは思わず手を添えて片付けるのを手伝った。 「え…あ、ありがとう」 その子は小さな声でお礼を言い笑うとあずさに頭を下げた。 あ、八重歯…なんかこの子可愛い 「お名前は?オレはあずさ」 「ふたば。あずさちゃんは赤ちゃんいつ産んだの?」 「えっ!まだだよ。まだっ」 「ごめんなさいっ」 「大丈夫大丈夫。お腹がぺたんこだったらそう思うよね?オレは発情期がひどくて避難してるだけなんだ」 「そうなんだ。ボク…赤ちゃんができなくて…Ωなのに。不妊治療中なの」 「え…そんなことあるの?避妊薬飲まなかったら100%授かるもんだとばかり」 「よく分からない」 「ただでさえΩで家族から嫌われてきたのに、唯一の取り柄の妊娠もできないなんて…恥ずかしすぎる…ぐす…っうぅ」 「え…え…どうしよう」 泣かせちゃった… あずさはおろおろとその場を右往左往し、泣くふたばに慌てた。

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