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香り
樹医師のつぶやきにあずさは反応し首を傾げた
「龍臣さんの香り?」
「ええ、そうです。Ωの本能がαを求めるんですよ。番のΩの子がよくやるんです。無意識に番のαの持ち物をかき集めて自分の居心地のいい空間を作ろうとするんです。ふたばも病室で突然やりだしたりして可愛いらしいんですがnesting なんていう言う言い方をします」
「おんなじようなこと…オレ、したかもしんない……。って言ってもまだ番じゃないから違うのかな?蒼炎さんはすづくりなんて言っていた気がするけど…」
「好意を寄せるαのものを収集するフリーのΩの子もいますよ。巣作りって言う表現もあります」
「ふたばちゃんもやるんだ」
「はい。旦那さんが忘れて帰ったジャケットを頭からかぶってお昼寝していましてね、それを取り上げようとすると泣いてしまって…」
「なんか、かわいい…ふたばちゃん」
「ええ。あれは可愛いかったです。それでnestingをふたばがやるのを分かってから旦那さんと相談してあえてふたばの部屋に旦那さんの持ち物を置いてふたばが入院を安楽にできるようにしたこともありました」
しみじみと話す樹医師の言葉をあずさは真剣に聞き、あずさはふたばがうらやましくなった。
「ふたばちゃん…旦那さんに愛されてるなぁ」
「あずさくんもちゃんと愛されてますよ。昼間のビデオ通話での龍臣さん、しゃべり方も穏やかで顔つきにも優しさが見えました。充分溺愛されていますよ」
「でも…番にしようとしないよ?」
「龍臣さんなりに気を使っているんじゃないかと?α側から強制的に引き剥がさない限りは番関係は解消されませんから。またその場合、Ω側はひどい虚無感と不安感、ヒートもよりきつく感じるのに、誰といたしても満足感を得るのが難しくなると聞きます。そういう目にあずさくんをあわせたくないんだと思いますよ」
あずさは頷き、深く息を吐き
「ごめん…先生。まだ、話を聞きたいんだけど…なんか頭がボーっとする」
「普通に会話ができていただけでもすごいですよ。もうすぐ完全に抑制効果がなくなります」
「え…」
もうすでに抑制効果はゼロだと思っていたあずさはゼロじゃなかったことを知り、驚きを隠せなかった
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