北の大陸ノーザ。 国境警備隊二番隊最年少副隊長。それが、ボルテの肩書きだった。 10歳で、親元から離れ国境警備隊に入隊。13の時に参加した、第七次魔獣大発生での功績が認められ、気が付けば副隊長にまで出世した。 一族の落ちこぼれ、ボルテ。 血統主義の父は、3人兄妹の中で、唯一オッドアイで産まれたボルテは母方の血統と判断され、3人兄妹の中で落ちこぼれ扱いだった。 ただ、一族から離れれば、ボルテの能力、容姿は他にもよりも優れていた。特に、魔獣退治にて、ボルテは非情なまでに冷静に一体も残す事なく駆逐する。 最年少の副隊長である、ボルテは自身よりも大きな剣を使い、魔獣を一太刀で殲滅させる程の戦闘能力に周りは僻みも妬みも無かった。 ノーザは北の大陸という土地柄、実力重視だった。 強い者に弱い者は従い、強い者は弱い者を守る。 これは、国境警備隊だけでなくノーザに住む者全てに言える事だった。 一年中、気温の低いノーザ。 雪が降ると孤立をする大陸だった。その為、弱い個体は自然淘汰されていた。今は、転移者の持ち込んだ技術のお陰で、寒さや飢えで淘汰される個体は減った。だが、山や谷、崖などの地形から、発生した魔獣が大きく育つまで発見がしにくく、成熟した魔獣による被害がノーザに住む者達を悩ませていた。その魔獣被害も、今では国境警備隊のおかげで少なくなっていた。 イースでは、国境警備隊は希望だった。 そんな希望の星でもある、ボルテの様子がいつもと違う事に、隊員達は落ち着かなかった。 副隊長になった事で「家篭り」休暇を取らされる様になり、今年で3年目だが、どうにも様子がおかしかった。何より、トレードマークとなっていた、ボルテの長い銀髪がざっくりと切り落とされていた。 「ボ、ボルテ！！　その頭！！！　どうしたんだ？！！」 ボルテと入れ替わりで休暇予定の、シュベール第二隊隊長に挨拶に顔を出すと、挨拶よりも先に頭を指さされたのだった。 「あぁ、切りました。」 「！？！！！！　切ったぁぁ？！」 「はい。」 満面の笑みで答えたボルテにシュベールは言葉が出なかった。 「そ・・その・・・切った髪は、どうしたんだ？」 「今朝、家に置いて出るのが心配だったんで、フィーに付けてきました。」 「？？？！！　フィー・・・？」 「はい！　こないだ、イースから「なんと！！！！！　で、家篭りを一緒に過ごしたのか？！」 「え・・・、は、はい。」 「そ、そうか！」 シュベールの急に上がったテンションに、ボルテは若干引きつつも上司の質問に答えると、シュベールは嬉しそうにボルテの肩を叩いて部屋を出て行った。 「・・・な、なんだったんだ？」 そんなに、この頭変か・・な？ 切りっぱなしになった、髪を弄りながら隊内を歩くと、顔を合わせる隊員達が皆、シュベールと同じ様な反応を見せた。同じ副隊長のフォックス第一部隊副隊長を捕まえ、隊員達の反応がおかしい事を説明させた。 「フォックス副隊長！　隊の奴らの反応がオカシイんですが、そんなに髪型変ですか？」 「・・・あー？　そうだな、確かにバラバラな毛先は、ちょっと気になるか・・・な？」 「床屋で帰りに揃えて貰います。」 「・・・そうだな。って、ボルテ、その切った髪はどうしたんだ？」 「フィーに付けましたけど？」 「・・・、フィー？」 フォックスが、そう聞くとボルテの瞳がキラッと光った。 「フィーですか！？　フィーなんですけど！！　凄い可愛いんです！！　フワフワだし。イースから来たから寒がりなのか、最初は別々で寝てたんですけど、気が付いたらオレの寝床に居て・・・。　家籠り中は、ずっと一緒の布団で過ごして・・・。それから、肉もオレが嚙み切ってあげたら手から食べてくれて、たまに舌がペロっってするんですよ!!! 排泄も、オレが最初は手でさせて・・・「スト―――――――――――――ップ!!! 待て!待て・・・。家籠り中の詳細は大丈夫だ！！」 普段の倍以上に喋りだしたボルテを、フォックスは慌てて止めた。 北の国境警備隊メンバーからすると、幼い頃から親元を離れて入隊しているボルテは、弟の様であり、息子の様でも有ったボルテから「家篭り」の詳細な話は、聞きたくない様な・・・聞きたい様な事だったが、本来「家篭り」の事は、他人に話すことでは無かった。けれど、嬉しそうに話しているボルテを見ると、フォックスも感慨深い気持ちにもなった。 その夜、北の国境警備隊内ではボルテに「フィー」という番が出来たと情報が走ったが、ボルテ本人から正式紹介が有る迄は、そっとしておく事と第一、第二部隊の両隊長名で、隊内全体へ注意がされた。 それは、ボルテの境遇に配慮されての事だった。