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第13話:ボルテ2
一族の落ちこぼれ。
そうボルテが認識しているのには訳があった。
北大陸を統治する、狼獣人は代々ボルテの一族から選ばれ、現統治者はボルテの叔父だった。 ボルテの父は狼獣人としての資質はあったが、より強く狼としての本能、資質を備え獣化する事が叔父は出来た。しかし、ボルテの父は統治者としての地位を諦めきれずにいた。自身の子供へ過度の期待をした。
ボルテの母は、シベリアンハスキーを主とする犬型の獣人だった。血筋としても狼の血が強くでやすいとされていた。ボルテの兄の毛色はグレーと白の斑に、顔には母と同じハスキーの模様。 次に、ボルテは銀色の毛並みで産まれた。それこそ、ボルテの父は次期後継者としての期待をボルテに向けたが、成長とともに開いたボルテの瞳は、オッドアイだった。最後に産まれた妹は、父親に似た姿で産まれ、父親の興味は完全にボルテからは失われたのだった。オッドアイは、ハスキーに見られる主たる資質。
母は、3 人の子に惜しみなく愛を注いだが、ボルテが 10 歳になる前に死んでしまった。
愛の深い狼は、番を失うを心を壊しやすく、ボルテの父も例外では無かった。
母の面影を濃く持つボルテを叔父は、国境警備隊へ入るよう勧めたのだった。
ボルテは、この隊で従順に任務をこなし、気が付いたら出世する事になった。
魔獣討伐では誰よりも多くの魔獣を倒し、不覚にも傷を負った当時の副隊長を庇い無事に生きて帰還する事が出来た。
誰よりも、隊の第一に考え、守る姿は群れのボスとも言えたが、まだ成獣前という事から副隊長のポストとなったのだった。
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群れのボスとして頭角を現していたボルテは、色恋については些か幼かった。
本来「家篭り」は、番同士の発情期を過ごす為の制度だが、ボルテはそんな相手を探すそぶりも無ければ、寄せられる想いにも今まで答える事は無かった。
そのボルテが「フィー」と相手を愛称で呼び、自身の髪を送ったのだ。
うっかり聞いてしまった「家籠り」の内容に、フォックスは思わず身が震えそうになった。
それは、ボルテのもつ資質が、させた行為だと、直感していたのだった。
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「家籠り」明けの出勤で、こんなに後ろ髪を引かれる思いになるとは思わなかった。
(いや・・・後ろ髪無いんだけどね。)
すっきりとした、後頭部を撫でながら、自身の所属する隊の詰所へ顔を出すと、シュベール隊長が顔を見るなり指差した。
「ボ、ボルテ!!その頭、どうしたんだ!?」
「あ、切りました。」
そう。フィーの首に小さな革袋がついていたのを見て、自分もフィーに何かを付けたくなったのだ。最初、髪を結んでいた紐と思ったが、フィーの黒く艶やかな毛並みに自分の銀色の髪が合うと思ったら、ざっくりと切り落していたのだった。
それを、三つ編みにしフィーの首に結んだ。
その姿を見た時、なんとも言えない満足感は言葉に言い表せなかった。
「・・・その切った、髪の毛は、どうしたんだ?」
「今朝、家に置いて行くのが心配だったんで、フィーに付けてきました。」
「!?! フィー?」
「はい!こないだ、イースからの・・・」
「なんと!!! で、家籠りを一緒に過ごしたのか!!!」
いつもは冷静な隊長の様子に、ボルテ若干引きつつも、フィーの事を思い出し思わず口元が緩んでしまった。その後シュベール隊長と別れてからも、出会う隊員に似たような反応をされた。
・・・そんなに変な髪型になってるのか?
ふと、視線を感じ、顔を向けると、目を丸くしたフォックス副隊長が立っていた。
「フォックス副隊長! 隊の奴らの反応がオカシイんですが、そんなに髪型へんですか?」
「・・・・あー、そうだな。バラバラな毛先はちょっと・・・気になるな。」
「床屋で帰りに揃えて貰います。」
「って、ボルテ。お前、その切った髪どこやった訳?」
「フィーに付けましたけど?」
「・・・・フィーって?」
え?フィーの事、聞いちゃいますか?
この日、色々な隊員に声を掛けられたが、ボルテが「フィー」と口にした途端、皆口を揃えたように「そうか!」「良かったな」と言われ、誰も「フィー」について最後までは聞いてくれ無かった。フォックスが、「フィー」ついて聞くと、ボルテの瞳がキラッと光った。
「フィーですか!? フィーなんですけど!! 凄い可愛いんです!! フワフワだし。イースから来たから寒がりなのか、最初は別々で寝てたんですけど、気が付いたらオレの寝床に居て・・・。 家籠り中は、ずっと一緒の布団で過ごして・・・。それから、肉もオレが嚙み切ってあげたら手から食べてくれて、たまに舌がペロっってするんですよ!!! 排泄も、オレが最初は手でさせて・・・」
「スト―――――――――――――ップ!!! 待て!待て・・・。家籠り中の詳細は大丈夫だ!!」
口を押さえられ、もごもごしてしまったが、どうやら「家籠り」の事は詳しく言わないのがマナーだったらしい。「フィー」の可愛さを伝えたかったのに、残念だ。
フォックス副隊長が、なんだか生温い目をして居たのが気になったが、ボルテは市内の見回りに出た。
ここ数年、他大陸から来た獣人が、ノース市内に迷い込む事があった。皆、最低限の服装や、所持品は一切持っておらず。中には虐待行為を明らかに受けた様な者もいた。保護が間に合わないで、そのまま亡くなった者もいた。
目撃した獣人曰く、「北の山の方から降りてきた」と皆、口を揃えて言っていた。
運よく助かった獣人は、よぽど酷い目にあったのか、何かされたのか・・・、自身の名前すら覚えていない者が殆どだった。
元より、強き者は弱き者を助けるのが、ノーザの民。
国境警備隊よりも先に、住民が保護をしているケースも少なくは無かった。
市内でも色々な店が立ち並ぶエリアで、ボルテは巡回中に一軒一軒声を掛けて歩く。
「こんにちわ。最近、何か変わった事ありますか?」
「あら、こん・・・。って、ボルテ、その髪!?」
通常なら日常の会話で終わるが、ほぼ声を掛けた全員が同じ様な反応で、つい店先を掃除していた、パン屋の店員にボルテは聞いていた。
「・・・皆、第一声がそれなんですけど・・・、そんなに変ですか?」
「そんな事無いわよ~。ただ、そうねー。早く毛先は揃えた方が良いかもね。男前が台無しよ~。」
「・・ありがとうございます。 今日は早めに、床屋に寄って帰りますね。」
「そうしなさいな。あ、そうそうナミの所に、見慣れない子が居たらしいわよ。」
「ナミさんの所ですか!? 身重なのに・・・。」
「まぁ、ナミの所なら問題ないだろうよ。」
そう言われナミの旦那を思い出し、ボルテは納得した。
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