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第9話:ルテ=ボルテ

はい! なんて、思ったが時がありました。 この銀髪男「ルテ」と、過ごして早五日。 フィガロは、なんでさっさと、獣化を解かなかったのかと後悔していた。 「ルテ」と名乗った男の正式名は、ボルテ。子供の頃に親兄弟に呼ばれていた愛称だそうだ。 そして、職業はノーザの国境警備隊副隊長。しかも、フィガロよりも 2 つも年下。この体格で成獣前 だった。親元から離れてもう、5 年。本格的な、家籠りはまだした事が無く、隊の規則に添って順番に 1 週間~10 日前後の休みを取っていたらしい。 そもそも、「家籠り」はノーザの隊のみの制度らしく、この時期に効率的に子作りをしろという事ら しい。ルテの所属する第二隊は、この時期になると隊長のシュベールとルテが、順番に家籠りをし、 次に第一隊のグリズ隊長、フォックス副隊長が家籠りに入る。グリズ隊長の所は、子供が 3 人いて、2 人は奥さん似の獣人らしく、3 人目にしてグリズ隊長と同じ熊獣人の子が産まれたそうだ。 シュベール隊長の所は、元々が子沢山の家系で 6 人兄弟で皆隊長と同じ毛並みで、奥さんは自分に似 た女の子が欲しいらしい。 フォックス副隊長は、最近番に成ったばかりで、ゆくゆくは孤児院から狐獣人の子を迎えるつもりらしい。 らしい・・・というのは、全部ルテがフィーに話してくれた事だった。 フィーを、膝の上に乗せ前足の肉球をムニムニとマッサージしながら、クリームで保湿まで。 「でね、フィー。あ、もうこんな時間か・・・、お昼にしようか?」 膝の上にのせられていた、フィガロはその言葉に一瞬身を固くしたが、すぐに床へ降り台所へと向かった。 「ふふ。お腹すいてたんだね。今、お肉焼いてあげるね。」 ボルテの尾が揺れるのを、見ながらフィガロはコンロの近くに飛乗り、ボルテが肉を焼くのをじっと見る。 !!今だ。 「うにゃん。にゃー、にゃー。」 前足で、ボルテの服を引っ張り甘えた様に鳴き声を出すと、ボルテの手が止まる。 「んー、もう食べたいのか? フィーは食いしん坊だなぁ。ほら、少しだけだぞ?」 「んにゃん。」 焼き立ての肉を、ボルテが嚙み切って小さくした物を掌にのせて、フィガロの前に出す。 良し!これなら食える!! ボルテの手から食べる事に、抵抗はあるがフィガロには、これでもマシな方だった。 ボルテのベットで寝た翌日から、ボルテはフィーを片時も離さなかった。 勿論、初日の様にボルテはフィーに排泄を促す行為をしようとした。 お湯の入った桶と、薄布を見てフィガロは、猛ダッシュでトイレのドアを掻いた。 が、虚しくも、ボルテは同じようにフィーの肛門にオイルを付けた棒で浣腸をした。 「んー? 少しお腹が張って来てるから、そろそろ排泄してもいいと思うんだけどなぁ・・・? フィーお腹苦しくないのか?? それとも、もう一人で出来るなかなぁ??」 その言葉に、コクコクと頷きながら前足をばたつかせる。 「あ、コラ! 暴れると、奥まで入って危ないぞ!!?」 !!! 「ニ“ャァ“ぁん!!!」 グリっ パタタッツ 「あれ。また、おしっこかぁ・・・。いま、拭いてあげるからな。」 もー、やだぁ・・・。 なんなのアイツ。 蹲って頭を抱えてると、暖かな布でお尻を丁寧ね拭かれる。 それが刺激となって、便意を催した。 や、ヤバイ!!も、漏れる!! ヨロヨロしながらも、フィガロはトイレのドアを掻いた。 「あ、こら・・。ここは、フィーには・・・、入りたいのか?」 ボルテが、トイレのドアを開けるとフィガロは一目散に便座の上に器用に乗って、ドアの前から動かないボルテに「シャー―――――――!」と威嚇した。 「えー、フィーが落ちたら心配なのに。仕方ないなー。」 パタン。 ドアが閉まったのと同時に、獣化を解いた。 !! ま、間に合ったぁ・・・。 はぁ・・・。 ホッと、しながら、トイレを流すと勢い良くドアが開けられる。 「フィー!?! 今、水流した!?」 「うにゃん」 「えー、凄い!フィーってば、トイレ出来たんだ!!! あ!!! だから、アレじゃ駄目だったん だ!!」 「うにゃ!!」 「けど、本当に出来てるのかな? 心配だから、明日は一緒に入ろうか。」 「にゃ!!!!!!!!!!!!????????????????」 抱き上げられてたフィガロは、思いっきりその手に噛みつく。 「え!? 痛ッ。一緒は嫌なの?」 「にゃ!!」 「そっか・・・けど、ちゃんと出てるか心配なんだよ?」 「う・・・にゃぁ・・・。」 「けど、フィーが嫌なら見ないよ。お腹の張りも無さそうだし・・・」 ボルテは、フィーのお腹をさすりながら、お尻の方へと鼻を近づけた。 「うん。ちゃんと、してるね。」 !!!!!?????????? バリッツ!!! 「いった!フィー?! ゴメン!!嫌だった?!」 思いっきり、身を捩ってボルテの顔を引っ掻いてフィガロは、台所の棚の上へと逃げた。 し、信じらんない。今、臭い嗅いだ!!!!! もう、ホントなんなの?? 信じらんない信じらんない!! 頭を抱えて丸くなると、ボルテの耳も尻尾もぺしょりとなって見上げてくる。 「フィー、フィー。機嫌直して?ほら・・・フィーの好きなカウミルク温めたよ?フィー?」 ・・・・。 「ほら、チーズも入ってるよ?フィー、だから降りてきて?ね?」 ・・・チーズ。はぁ、仕方ない。降りてあげるか・・・。 ぴょんぴょんと、棚から降りて行くとミルクとチーズの入った皿が、フィガロの前に置かれる。 ペロ。 うん。丁度いい温さ!! ペロペロと、夢中に成ると背中が撫でられる。 「ごめんね。もう、フィーのお尻の臭い嗅がないからね。」 ぺシっと、フィガロの長い尻尾でルテの手を叩くと、ゴメンともう一度謝る声が聞こえたが、フィガロは無視をしてミルクを舐めていた。 「そうだ、肉も食べるかな?」 !!お肉!! 思わず、お皿から顔を挙げてルテの方を見てしまう。 「ん! フィー、肉好きなのか? じゃー、今日は肉を焼いてやろうな!」 やった!!!肉!!! って、えええええええええええええええええええええええええ え!!!!!!!!!!!!??? 「ほら!! フィー、食べやすい様にしてあげたよ!」 フィガロの目の前には、温められたミルクと、良く噛みほぐされた肉だった物体が置かれた。 いやいや、無理無理無理!!!!!!!!!!!!!!!!!!! え、嫌がらせ???! じゃ、なさそうだなぁ・・・・。うわぁ・・・・。 また、フィガロは頭を抱えてしまう。 「どうした?フィー、肉、食べないのか?」 ルテの耳と尻尾がまたぺしょりとなる。 ううううううう・・・・・・・・・。 フィガロは、まだ原型をとどめている部分をちょっとだけ、ペロっと舐めたが、すぐミルクの皿に顔を突っ込んで一心不乱にミルクを舐めた。 これを繰り返す事、3 日。 ボルテが必要以上に、構おうとすれば、フィガロは最初は甘噛みをしたが、それでもボルテは構うことを辞めなかったので、最後 は噛む。引っ掻く。そして「にゃう」と鳴いた。 獣人が獣化する時は、本能が優位になっている状態で言葉を喋るというよりは、本来の鳴き声や音を出す事が一般的だったが、家猫の獣人は言葉を話す事も出来た。 だから、フィガロも「にゃん」と鳴く必要はなかったが、今更獣人だと知られるのはフィガロは恥ずかしかった。 それでも、ボルテが行き過ぎたお世話をしようとするのを止めたくて、フィガロは「にゃー」とないたのだった。 「え? 今、フィー鳴いた?え・・か、可愛い。もう一回!ほら、フィー?」 「に”ぁあ!」 ペチと、前足でパンチをする。 もう、しつこい!! 「あ! 今のは解った。フィ―、ゴメンゴメン。」 そうやって、フィーが感情を出す様になるとルテはトイレには無理に入ってこなく成り、食事も噛みちぎる位でやめる様になった。 はぁ・・・。ナイフ使うとか、小さく最初から切ってくればいいのに。 掌に次々と、食べやすいサイズに成った肉がのせられる。 このカウの肉、美味しいのになぁ。 ペロ。 無意識に、ボルテの掌を舐めてしまう。 「!!!!!」 ん? なんか、震えてる?? 見上げると、ボルテが片手で顔を抑えて天を仰いでいる。 ・・・、いやホント。 さっさと獣化解けば良かった・・・。 フィガロが初め獣化を解かなかったのは、自分のいる場所が解らなかった事が大きかったが、今は獣化を解くタイミングを逃してしまった事が大きかった。 せめて、ルテが何処かに出掛ければ良いんだけどなぁ・・・。 はぁ・・・。 ルテの膝の上で、丸くなりながらフィーは溜息を着く。 この数日で、すっかりとフィガロはボルテの膝の上で寛ぐ事に慣れてしまっていた。 このまま、獣化を解くタイミングがなかったらどうしよう。 はぁ・・・。 フィガロが溜息を着いたのと同時に、ボルテもフィガロの頭を撫でながら溜息をついた。 「あぁ・・・。フィー、明日から一人で留守番だけど・・・大丈夫か?」 え?留守番? その言葉と共に、ボルテの長い髪は短く切り落とされた。

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