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第16話:不穏
ガッシャン!!
「ひっ!! も、申し訳ありません!!!!」
壁に投げつけられたガラスの置物が、激しい音を立て壊れる。
下げた頭に破片が降りかかる。土下座したままの男の視界に、磨き上げられた靴先が入りこむ。
床に付いていた男の手が、靴の下敷きになる。
「あ“ぁ“っつ!!も、も“うじわけ・・・。」
「はぁ・・・。それ以外は言えないんですかねぇ?」
薄く開いた唇から、チロリと舌先を覗かせる。
「ま、魔獣が・・・。で、ですが、黒毛の男は・・・あ“がっ!!」
押さえつけていた足が、顔を蹴り上げる。
「はぁ・・・、同じ事ばかり何度も何度も。まぁ、いい。質問を変えましょうか。」
「あ“が・・・。」
顔と掴まれ、ミシミシっと静かに音が響く。顔から血を流した男の霞初めた視界に、鈍い一つの光が見えた。
「何をみてるんです? ああ、あなたもお揃いにして上げましょうか?」
「あ“が・・・あ“あ“っ!!!!!!!」
グシャ!
男の悲鳴と共に、ビチャっと男の目玉が転がる。
「あぁ・・・手元が狂ってしまいましたね。」
「あああああぁ・・・あぁ・・・」
コンコン
「そろそろ、お時間です。」
扉の外から声をかけられ、男は手の汚れを拭う。
蹲ったままの男を、ひと蹴りし扉の前からどかし、部屋の外へ出ていく。
「・・・片しておけ。」
「かしこまりました。」
従者に手渡された手袋を嵌め、長い廊下を進む。
左目の眼帯を撫で撫でながら、手に入れ損ねた猫の事を思い浮かべ、思わず口元が上がってしまう。
ああ、早く私の手元で可愛がりたいモノだ。
クククク・・・・。
へくっち!
うー、寒い。寒い・・・。アレ?ルテ居ない?
ヒクヒクと鼻を動かしながら、目を開けるとベットにフィガロだけが寝ていた。
キョロキョロと部屋の中を見渡し、台所に行くと昨日と同じようにお皿に少し冷えた肉が置いてあった。それらを食べて、フィガロはボルテが居ない事を確認したら、獣化を解いて人型に戻る。隠して置いた服に着替え、台所にあった鍋を確認する。
「今日は、遅めだったのかな?」
小鍋に残っていたミルクに、フィガロのお腹が小さく反応する。
用意されていたフィーへのご飯も今日は、まだ温かく、昨日ナミ達の食事処の手伝いで、今朝はおながしっかりと減っていたので、ペロリとたいらげた。が・・・くぅぅと、フィガロのお腹が小さな声をあげた。
「・・・・あとで補充しておけばいいかな?」
獣化を解き、鍋に残っていたミルクを温め直し、棚にあるパン一枚、フライパンで温めチーズを乗せる。チーズがとろけたところで、皿に移しミルクをカップに注ぐ。
「いただきます。」
いつも、ボルテが座っている椅子に腰掛けながら、自分のために用意されていた木箱を眺める。
・・・イースじゃ考えられないよなぁ。
自分の置かれている状況を、フィガロは改めて幸運だと思った。
ボルテの行動が、全てありがたいわけではなかったが、寝食はイースで暮らしていた時よりも遥かに充実し、たった一日だったが、出会った獣人達は皆、フィガロに対して優しかった。
だからなのか、フィガロは獣化を解くのが怖かった。
「フィー」が、魔獣の子じゃなく、普通の獣人だとルテが、知ったら・・・
やっぱり、ここから出て行かないいけないよな・・・。
パンとスープを食べ、使った食器を洗い元あった場所へと戻した。
・・・とりあえず、今は、バレない様にしないとな・・・。
隠しておいた靴と帽子を取り出し、フィガロは今日もナミ達の元へと急いだ。
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