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第19話:手紙
「おはようございます!」
「ああ、ボルテおはよう。なんだ?朝から、随分ご機嫌だな。」
隊の詰め所に顔を出した、ボルテにフォックスが声をかけた。
「?そうか??」
「無自覚か。」
「はぁ・・・。」
ブンブンと揺れていた尾が、ゆっくりと下がる。
フォックスはそれを横目に、引き継ぎ書をボルテに手渡した。
「また、北の外れに身元不明の遺体か・・・。」
「ああ・・・。中には、魔獣に食われて破損してるのも・・・。」
フォックスのその言葉に、ボルテの表情が暗くなる。
「はぁ・・・。そんなに、他の大陸は治安が良くないんですか?」
「他大陸の内部までは解らないがな・・・。そういえば、お前、イースからの帰りに魔獣に襲われてた馬車が有ったっていったよな?」
「あ、はい。破損してましたが、エンブレムらしきものを鑑識部へ提出したのですが・・・。」
「ああ、それがサウザで登録の有った馬車だったらしいんだが、イースで盗難に有ったそうだ。」
「盗難? でも、荷台には、何も・・・。いや・・・まさか・・・・。」
あの日、イースからの帰りボルテはノーザへ続く大通では無く北の外れを通る道を選んだのだった。その道を選んだのには、特に理由は無かった。単に行きに通った道じゃない方を通って帰ろうと思っただけだったが、北の外れへ差し掛かるにつれ、何ともいえない臭いが強くなり、魔獣に襲われている馬車を見つけたのだった。
山脈の間を通る道は、魔溜まりが出来やすく魔獣が産まれる頻度が他の大陸よりも高かった。ただ、地形のおかげでノーザ市内や麓の街に魔獣が降りてくる事は滅多に無かったが、大通りを通らずにノーザへ入る行者の馬車が襲われる事は、少なくは無かった。
ただ、大通りを避けて通るのには、訳があるのか、魔獣に襲われたとしてもノーザには何も報告が上がることは無かった。
そんな場所で襲われていた馬車は、サウザで盗難に有ったもの。
その日、自分の馬車で見つけた黒い塊。
「・・・まさか・・・フィーは運ばれてた?」
ぽつりと零れ出た言葉を、フォックスが聞き逃す事は無かった。
「・・・フィーって、お前のとこの?」
「え・・・あ、はい。けど・・・まだ、そうと決まった訳ではないですし・・・。ちょっと、リスト見せてもらっても?」
「あぁ・・・。」
各大陸から寄せられる行方不明者の情報は、数枚のリストとして情報共有されていたが、その中から生きて発見できる確率は低かった。その中で、一番発見されるのがこのノーザの地だった。
パラパラとリストをめくるが、黒い毛色の獣人やペット魔獣の記載は無かった事に、ボルテはほっとした。
「・・・ここには載ってない様です。」
リストの中には、色々な獣人の名前や年、獣種の特徴などが書かれていた。が、「フィー」の名前や、黒い毛色に、金眼などの特徴の獣人は載っていなかった。
ただ、異様に「猫獣人」の記載が多い事に引っ掛かりを覚えた。
「フォックス・・・、この猫獣人って・・・」
「あ、ああ。サウザとかウエスの統治者と似たような獣人だよ。」
「サウザやウエスって、虎や獅子ですか?」
「まぁ、イースは猫獣人に対しての差別が今だに根強いって言うしな・・・。行方不明なのか、移住なのかは解らないよな・・・。」
「でも、届けがでてるって事は、探してる人がいるって事じゃ・・・。」
「どーだろな? そうとも、限らないぞ? サウザじゃ、猫獣人の番を、獣化させて連れ歩くのがステータスだったらしいし。それに、まだ家族が気がついていない場合や、逃げてきている場合もあるからなぁ・・・」
「・・・逃げて・・・。あ、あの・・・、フィーなんですが・・・何かに怯えていた様で・・・。
けれど、このリストには・・・。」
「・・・ボルテ・・・。」
リストを握るボルテの手に、力が入る。
握りしめられたリストを、フォックスが受け取りボルテの肩を叩く。
「お前がついてるんだろ! フィーが、安心できる様にオレらも見守ってやるから!」
「!!」
ボルテの項垂れていた耳と尻尾がピンと上がる。
フォックスの言葉に嬉しそうに尾が揺れる始める。
そっか、もっとフィーに安心してもらえるようにしないと!!
「それに、お前の毛を持たせてるんだろ?」
「はい! フィーの首に巻いてあります!!」
「・・・え“?」
「フィーにオレの色が似合って良かったです!」
「・・・そ、、そうか・・・。」
心底嬉しそうな顔のボルテの尾が、忙しく左右に揺れる。その様子にフォックスはドン引きしていたが、ボルテは気がついていなかった。
くっちッ
「なんだい? フィーガ、冷えたのかい?」
「ですかね?」
「んー、その格好じゃあんたには寒いかもしれないねぇ。」
イースにいた頃よりも、遥かに厚着をしているフィガロだったが、ナミからしたらその格好は薄着の分類だった。少し考え、ナミはリサにタンスの下の段からあれを持ってくるように言いつけていた。
少しして、両手に上着とニット帽を持ってきたリサにフィガロの目が丸くなった。
「この子のお下がりで申し訳ないけど、良かったらそれ着たらいい。」
「はい、フィーガ。頭出して。」
「え?」
リサの前に、頭を下げると、ポフっとニット帽が被された。
ふわふわのぽんぽんがついた赤いニット帽は、フィガロをより幼く見せたがよく似合っていた。
「え・・・あ、ありがとうございます。」
少しもこもこになったフィガロの姿に、ナミもリサも口元が緩んでいた。
「あ、そうだ・・・ナミさん。サウザに手紙を出したいんですが・・・」
「手紙かい? それなら、うちからも出せるわよ。」
「そうなんですか!」
「5日置きに、持っていってくれるから・・・あら、今日くるわよ。」
「えっ?!」
「そこの紙とペン使ってもいいわよ。」
「ありがとうございます!!」
えっと・・・
どうしよう・・・。ノーザに居るって書いたら、変に心配しそうだよなぁ・・・。
よし!
サラサラっと、慣れた手つきで紙にペンと滑らしていく。
「・・・あら、あんた綺麗な字を書くね。私でも読めるよ・・・って、それで良いのかい?」
「あ・・・はい。 変に心配させたくないので・・・。」
「そうかい・・・。」
紙を丸め、綴じ紐に封蝋をした。
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サラサラっと、慣れた手つきでフィーガが紙に文字を書いて行きナミは、内心驚いていた。
この大陸で、文字が書ける獣人は多くは無かった。
両手足に、獣種の特徴が出てしまえば、ペンを握る事は難しく、転移者が伝えた文字は丸かったり、波打っていたりと、細かかった。
読めるが、書けない獣人達向けに「代筆屋」という職業があり、一文字いくらと価格が決められていた。それでも、親い者同士であれば自分たちのサインで、意思を伝える事が可能だった為、「代筆屋」の多くは権力者達のお抱えになる者が殆どだった。
「綺麗な字、書くんだね。」
「あ・・・、はい。母と父が、食べていける様にって・・・。」
「そう・・、いいご両親だったんだね。」
「はい。」
『僕は、元気で過ごしてます。 必ず、サウザに行くから安心して。』
そうフィーガは綴っていた。
自分のいる場所、誰といるか・・・そんな情報の無い手紙。
やっぱり、この子は訳ありなのかしらね・・・。
「代筆屋」の多くは、その仕事内容から、抱えられた権力者の元で生涯を終える事が多かった。
多くの機密を知るような、中央の「代筆屋」は舌を抜かれ、手を切り落とされたりすることもあるらしいが、それ以上に高い金や地位についてもいた。
ナミも文字は読めたが、書くのは苦手だった。
オーダーを取る時も、ここでは料理の頭文字だけだった。
ラビも読めるが、書く事は出来なかった。むしろ、鍋より軽く、包丁よりも細いものを扱うのは力加減が難しかった。
だからと言って、不自由な訳でもなかった。
そう思う獣人は、多く。高級取りでも、制限の多い「代筆屋」は成り手は少なかった。
そんな職業に、親が子供に勧める理由なんて、限られてるわよね・・・。
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