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第20話:市内巡回

フィーが安心して過ごせるようにか・・・。 フォックスとの会話を思い出しながら、ボルテは市内巡回に出ていた。 いつもの様に、一軒一軒声をかけては広場や路地裏まで見て廻る。 巡回場所は、月の半分づつの当番制だった。 第一隊が市外。第二隊が市内。 市内には、イース、サウザ、ウエスからの獣人の姿も多く、小さな小競り合いも少なくはなかった。 特に、ノーザの獣人との小競り合いではなくサウザ、ウエスの獣人に対してイースの獣人が突っかかる感じだった。 「あー、くせぇくせぇ!! この店は、こんな下品な猫と飯を食わせんのかよ! 「あ“?! なんだと!!」 「ちょ・・・や、やめてください!! お客さん!!!」 ガッシャーンと、巡回中のボルテの後ろでガラスが割れる音がする。 慌ててボルテが店内に入ると、豹柄の尻尾を揺らしている獣人に向かって、人型に近い獣人が挑発していた。一触触発の空気に、ボルテが吠えた。 「おい、お前らやめろ!!」 「「!!!!!」」 「ここをどこだと思ってるんだ!喧嘩がしたいなら、自分達の大陸へ帰れ!!! ここではここのやり方に従って貰う!!!」 「ちっ!! おい、亭主。勘定ここにおいていくぞ!!猫となんか食えるか!」 「は、はい。 毎度。」 人型に近い獣人は、ネズミだったのか振り向き様に、腰に巻きついていた細いしぽが揺れていた。 「亭主さん、詫びといっちゃぁなんだが、今日はこの店にいるやつの勘定をお支払いするよ。」 「えっ?!」 呆然とする亭主に、豹柄の獣人はニッコリと笑いながら、そう告げると、「おぉー、」「やリー、太っ腹だなあんた!」遠巻きにしていた店内にいた獣人達が豹柄の獣人の言葉に喜び手にしてたカップを掲げた。 「・・・その前に、騒ぎの原因を聞いても?」 「ああ、別にあいつがイースの獣人だからだろ。転移者の教えだっけか?」 「・・・転移者の教え?」 「ああ、猫獣人は不吉だとかそんなやつ。まぁ、俺のいる大陸では、ラッキーキャット(幸運猫)って言葉もあるぐらいだからなぁ。」 「猫獣人は不吉?幸運? なんだそれ・・。」 「まぁ、イースじゃ今だに猫獣人の対してクソ差別が根強いらしいな。俺も仕事じゃなきゃあんな大陸通りたくもないぜ。それに、あそこは嫌な匂いがするしな。」 「・・・嫌な匂い?」 「ん? あぁ、あんたにゃわからんだろうがな・・・。まぁ、もう騒ぎも収まったし、あんたにも迷惑かけたな!!」 「いや・・・、仕事だから。」 「俺は、サウザからイースに行商で来た、ピンイだ。あっちのは、相棒のフェイ。 まだ、この大陸にいる予定だからよろしくな。」 さっきまで、ピンイが座っていた席を指差すと狐獣人がこちらを見ていた。 「ああ、このノーザ国境警備隊第二隊のボルテだ。」 ボルテがピンイが差し出した手を取ると、力強く上下に振られた。 猫獣人か・・・。 「うわっ。」 「ごめんごめん。あんたから、知ってる匂いがした気がしたから・・・。」 反射的に近づいて来た顔をボルテはおもわず押しのけていた。 「はぁ?」 「まぁ、ノーザに知り合いなんかいなし、気のせいか・・・。悪かったな。」 スルッと、豹柄の尻尾がボルテの腕を撫でピンイは座っていた席へと戻って行こうとしたが、ボルテは咄嗟に引き留めていた。 「あ、あの・・・猫獣人って、そんなに悪いのか?」 「ぁあ“?? 何、さっきのなら謝っただろ。」 「いや、そうじゃ・・・。う、うちにいるフィー・・黒いのが・・・。」 「・・・あ? あー、ここじゃ知らねーが、イースじゃ猫獣人は愛玩魔獣以下だ。サウザやウエスは、統治者達が猫獣人だからな・・・。まぁ、獣人って括りは同じなのに。」 「・・・そうか。」 「何?その黒いのが、そうだったら捨てるのか?」 「それは無い!!!!」 「・・・なら、可愛がてやんなよ。」 今度こそ、振り向く事なくピンイは席に戻って行った。 ボルテも亭主に挨拶をし、巡回へと戻っていった。 「何、珍しいな。ピンイが、犬に絡むとか。」 テーブル席で、一緒に飲んでいた狐獣人が、ニヤニヤした顔でピンイを迎えると、酒の入ったカップを手渡した。 「・・・そうか? なんか・・・知ってる匂いに似てる気がして、つい・・・。」 「へー。 妬けるねぇ〜。」 「ばーか、そんなんじゃねーよ。」 受け取ったカップに口をつけながら、ボルテの出ていった方へ視線を向けたがすぐに、席に運ばれてきた食事にピンイは手を伸ばした。 「戻りました。」 「ああ、お疲れさん。 騒ぎがあったんだって?」 「え・・あぁ。」 「なんだ? そんなに、大事だったのか?」 「え・・・? あ、いや。騒ぎ自体は、大した事は無かったんですが・・・。サウザの猫獣人に対して、イースの獣人が因縁をつけたようで・・・。」 詰め所に巡回報告にきたボルテの前にシュベールがカップを置く。 「・・・で、それだけじゃ無いんだろ?」 どこか元気の無い尻尾が、ゆっくり左右に揺れる。 「・・・猫獣人の差別て・・なんですか・・・?」 「ん? お前、知らないのか?」 「はい。」 しょぼくれたボルテの前に、シュベールも腰を下ろす。 「なんだ?そんな事で、元気がないのか? 種族での苦手意識は仕方ないんじゃないのか?」 「・・・そうですが・・・、その・・・なんていうか・・・。何かが引っ掛かって・・・。」 「そうか・・・。ボルテは変なところ真面目だしな。気になるなら、書庫に行けば何かしら資料があると思うぞ。あと・・・、猫獣人の差別は転移者が関わっているから中央に行けば詳しくわかるんじゃないか?」 「・・・中央ですか・・・。」 「あーー、まぁ、とりあえずうちの書庫から見たらいい。」 「はい。」 出されたカップの中身を飲み干しそのまま部屋を出て行った。 ボルテは自分でも、どうしてこんなに気になるのかわからなかった。 猫獣人の存在は、知っていたが差別について気にした事なんてなかった。 けれど、巡回先で耳にした言葉が引っかかってっていた。 『愛玩魔獣以下』ってなんなんだ? 獣種間での相性は、どうしてもあるだろうが・・・、魔獣以下の扱いなんて。 「あ・・・あった。」 転移者に関しての報告をまとめた本を数冊ボルテは持ち出した。

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