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第22話:不穏2

「やっぱり、寒かったのかな?」 小さな寝息を立て寝ているフィガロを見て、ボルテは暖炉の前に戻る。 隊にあった転移者の教えに関する報告書は、3冊あった。 イース、サウザ、ウエスの報告書に書かれている内容は、ところどころ黒く塗りつぶされた部分もあった。 「・・・この消されている部分は、何が・・・。」 黒猫獣人は、不幸を呼ぶ。 三度会えば、命を落とす。 猫獣人に見つめられると、心を乱す。 書かれている内容に、ボルテは理解ができなかった。 『ラッキーキャット』 巡回中に出会った行商の獣人が言った言葉が、ボルテは引っかかっていた。 「・・・確か、サウザって言ったよな。」 持ってきた報告書から、サウザの転移者が書かれた本を開く。 「・・・は? なんだこれ。」 猫獣人は、しなやかな体躯に魅力的な瞳。 ふにふにとした肉球は、甘い香り。 簡単には靡かない、自由気ままな性質。 右手を挙げれば人を、左手を挙げればお金を。 「・・・どういう事だ?」 反する内容の報告書に、ボルテは本を閉じた。 ただ、猫獣人が住みやすいのはサウザだという事はボルテにも分かった。 フィーは・・・、猫魔獣なのかもなぁ・・・。 猫獣人は、完全な獣化が可能。 それ故に、魔獣との交配をして生きる卑しい存在。 その文と共に書かれた絵図は、フィガロにそっくりだった。 黒く三角の耳に、金色の目。長い尻尾。 見つけ次第、駆除するべき。 これは、イースの報告書。 無闇な、殺害は7代祟る。 これは、サウザの報告書。 「・・・勝手だな。」 空になったカップを流しにいれ、フィガロが寝ている横にボルテが入り込む。 「プッ。こら、フィー。真ん中で寝たら寝れないだろ。」 「んにゃぁ・・・?」 後ろから包み込むようにボルテが腕を伸ばすと、無意識にフィガロがぬくもりを求めて 擦りよった。 「ふふ・・・あったかいな。」 「うにゃ・・・。」 寝ながら返事をするフィガロの鼻先に、ボルテはキスをして眠りについた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 北の外れにある寂れた酒場で、荒れた男が酒をあおっていた。 「クッソ! あー、気分わり!!」 「おや、随分と荒れているじゃ無いか。」 「あ? なんだ、お前。」 フードを目深に被った男が立っていた。 「あぁ、気を悪くさせたなら一杯奢ろうか?」 「はっ、随分気前がいいんだな。」 フードの男は隣に座ると、同じモノを頼む。 「ところで、荒れている原因を聞いても?」 「あぁ? 大した事じゃねーよ。ちょっとばかし、嫌な獣人に出会しただけだぜ。」 「ほう。」 「おりゃ、イースでチーズ売りをしててよ。買い付けにこっちにきたんだが、立て続けに猫獣人に会ったってだけだ。」 「・・・猫獣人ですか。」 「あ“?なんだ、お前も、ここの獣人か?」 「・・・。」 「けっ・・・、ここの奴らは、猫獣人ってのを知らねーのかね。肩持ちやがってよ!!」 ダンっと乱暴に空になったグラスをカウンターおくと、フードの男は店員に同じものを注文する。 「・・・立て続けにとは?」 「あ?? なんだ、変な事気にすんだな。 まぁ、ノーザにや、寒さが嫌いな猫獣人なんて滅多にいねーもんな。それなのに、今日はホント厄日だ!!! クッソ!!あの豹柄野郎!!!」 「・・・。」 いつの間にかボトルが男の前におかれ、フードの男はグラスが空くたびに酒を注ぎ入れていた。 みるみると男の顔が赤くなり、呂律がまわらなくなってくる。 「あぁ・・・けど、あのガキは・・・。もったいねぇ・・。」 「・・・ガキ?」 「ウサギと、い・・ぬ、くせぇ・・・あ、ありゃ・・・ね・・こだ・・・。」 「・・・・それは、どこで?」 「・・ん・・ぁ・・・? ど・・・こ?? あー・・・ぁ。」 「・・・チッ。 飲ませ過ぎたか・・・。オイ、勘定だ。」 カウンターに、伏せるように眠ってしまった男を置いて、フードの男は金貨1枚を置いて店を出て行った。 店の前に、止まった馬車に乗り込みフードを脱いだ。 月の光が、路肩に積まれた雪に反射する。 その光に、冷たく男の右目もまた光、男の薄い唇とチロリと二股に分かれた舌が舐めた。

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