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第25話:伝播する。
北の外れは、山々に囲まれ。すぐに天候が変わり、地元に住む者ですら除雪作業で積み上げた雪山に埋もれて命を落とす事は少なかった。今回も、宿に宿泊していた別大陸から来た獣人が、酒に酔って雪山に足をもつれた事故と思われた。
埋もれた獣人を雪山から引き上げるまでは・・・。
「なッ・・!? お、オイ!!!! 中央に連絡だ!!!」
「ん? ・・・こいつ、昨日うちの店で飲んでた奴じゃないか・・・?」
「ってことは、ここまで歩いたのか??」
「と、とにかく、連絡してくる!!!」
獣化したグリズが、先に走り茂みの中に獣道を作っていく。
微かに臭っていた血のにおいを頼りに、走り進めると少し開けた場所へと出た。
「うっ。」
一気に濃くなった臭いに、一瞬顔を背けたボルテを横目に、グリズは足元の雪を避ける。
「・・・ここが、現場か?」
雪がうっすらと積もった地面に、赤黒い染みを見つける。
何かを引きずった跡と、何かの足跡。
「・・・ボルテ、中央に連絡しておけ。」
「・・・はい。」
ボルテは胸ポケットから、小さな銀色の笛を取り出し、口に咥えると、一羽の鳥が肩にとまった。鳥の足に、リボンを括りつけると、空へと放した。
その横で、グリズが狼煙を上げた。
「さてと・・・、発見現場に行くぞ。」
「はい!」
微かな臭いを辿ると、発見現場へと続いた。
何人かの獣人が、布で覆った物体を囲んでいた。
グリズが後ろから声をかけると、宿屋の亭主が飛び上がった。
「オイ、連絡を貰った国境警備隊だが・・・。」
「えっ、あはい!!」
「で、これか?」
「は、はい!」
かけられていた布を捲ると、ボルテの顔が一瞬強張った。
「こ、この男・・・。」
「なんだ、ボルテ知り合いか?」
「いや・・・し、知り合いというか・・・。」
「・・・まぁ、後でゆっくり話は聞く。今は、コイツを襲った奴の駆除が先だな。」
「はい。」
ボルテの脳裏に、ピンイの言葉がよぎる。
『猫獣人は不吉』
黙ってしまった、ボルテの後ろで宿の亭主達の会話が耳に入ってくる。
「そーいや、コイツ。見かけないフードの男と飲んでる最中、猫獣人にあったとかなんか言ってたな。」
「猫?それって、サウザとかウエスの?」
「だと思うぞ。このノーザじゃ、猫獣人なんかいないしな。」
「・・・猫獣人。」
「そーっす。あんたも、転移者の教えっての知ってるだろ?猫獣人と出会うと不吉って奴。」
「「そーなのか!??」」
その言葉に思わず、ボルテの尾が反応する。
言いようの無い感情が、ボルテの中に湧いてくる。
ポンッ
「それは、確証の無い事だってサウザとウエスの統治者を見ればわかるだろ。」
「隊長・・・。」
「あー、サウザって獅子獣人だっけか!!」
「ああ、あの長髪の色男!確か、ハーレムがあるとか・・・」
「ウエスも、系統の違う色男だって聞くぜ。」
「それなら・・・不吉ってなんなんだろうな・・・?」
獣人達から出てきた言葉に、ボルテはほっとしていた。
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