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第27話:ボルテ眠る。

茂みを掻き分け、フィガロはボルテの匂いを辿っていく。 「!?」 一際、匂いの濃くなった場所にたどりつくと、赤黒い染みがあった。 その跡を辿ると、ボルテと同じ服装の獣人に担がれているボルの姿が見えた。 近づこうとした、フィガロは足を止めてしまう。 ボルテの右腕が、真っ赤に染まっていた。止血に使われている布が赤く染まり、ボルテの匂い・・・血の香りが強くなる。 ル、ルテ!あんなに血が・・・。だ、大丈夫なのかな・・・。 ポテポテとフィガロが荷馬車まで戻ると、ラビの姿はまだなかった。 こっそりと、荷馬車の陰で獣化を解いて隅に座ってラビの帰りを待った。 「フィーガ、手伝ってくれないか!!!」 「! ラビさん?!!」 この匂い・・・!!まさか・・・。 「ルテ!」 荷台から飛び出ると、ラビがボルテを抱えて立っていた。 ボルテの腕に巻かれた布は、白く新しいものに変わっていた。 「こいつも連れ帰ることになった。 後ろに乗せてくれ。」 「は、はい! ぼ、ぼく隣で支えます。」 「ああ、そうしてくれ。」 フィガロはフードを目深にかぶり、荷台にラビと一緒にボルテを乗せ、ボルテの隣に座った。 荷馬車がガタガタと揺れるたびに、意識の無いボルテの体がゆらゆらと動く。 あ、危ない・・・。 ガタンと大きな揺れで、ボルテの体がフィガロの方に倒れ込んだ。 「うわっ」 「すまん、落石を踏んだ。 大丈夫か?」 荷馬車を操作していたラビが、前を向いたまま声をかけてくる。 それに返事をしたフィガロは、自分の膝へとボルテの頭を倒した。 膝の上に、青白い顔をしたボルテの頭がのる。 顔にかかった銀色の髪を、フィガロの指がはらう。 ・・・冷たっ。 思わず、フィガロの手のひらがボルテの頬や額に触れるとその温度にびっくりする。 額に手を乗せたまま、ボルテの腕を見るとうっすらと血が滲み始めていた。 ルテの痛みが和らぐといいな・・・。 町に着くまで、フィガロはボルテの腕を撫で続けていた。 兎まい亭には寄らず、フィガロとボルテを家まで送り届け、ラビはボルテをベットに運んだ。 「・・・あいつが目覚めるまで、店は休め。お前も・・無理はするなよ」 「はい。ありがとうございます。」 ラビをドア前までフィガロは見送った。 停めてあった荷馬車を、慣れた手つきでラビは動かし、兎まい亭へと帰った。 軽いノックと共に、書類を手にした狐獣人が入ってくる。 「先ほど、第二隊から連絡がありました。こちらがその報告書になります。」 「ああ、魔獣が出たんだって?」 「はい。それで、調査に出ていた第二国境警備隊副隊長のボルテが負傷したとの事です。」 「・・・そう。それは、またあの人が騒ぎそうだな・・・。」 「・・・それは・・。」 澄み渡った空が、窓の外に広がっていた。 ガシャン!!! 清々しい外の空気とは比べものにならないほど、重く荒れた空気が部屋の中に広がる。 テーブルの上に置かれた、ワインボトルが床に叩きつけられ、グラスが音を立てて割れる。 「あの出来損ないが!!!!!!」 「だ、旦那様!! 落ち着いてください!! そ、それで・・ボルテ様の意識がないようで・・・。」 「そうか。あんな出来損ない、いっそ、目覚めなくてもいいだろう。」 「だ、旦那様!」 「部屋で飲み直す。 片しておきなさい。」

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