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第31話:手紙届く
「フィガロから、手紙が届いたって!!!?」
「何度言えば学ぶんだ!? 扉は静かに開けてくれ!!!」
「ああ、悪い。」
勢いよく開けた扉に、驚いた従業員の尾が太く膨らんでいた。トネリは軽く手をあげ、カウンターに腰掛けた。
「それで、手紙が届いたって?」
「まずは、注文をどうぞ。」
「いつもの。」
「はいよ。」
トネリの前にグラスと、封蝋を押された手紙が置かれる。
封蝋を外すと、短いが簡潔に書かれた内容に、トネリは安堵する。
『僕は元気です。心配しないで。●●●●』
そう書かれただけの手紙の隅に書かれた4個の●。
これは、フィガロの家族が決めたサインだった。
そのサインを見て、トネリは安堵してたのだった。
「居場所は書いてないんだな。」
「な、勝手に見るなよ!」
「おいおい、真っ先に連絡してやったんだぞ。少しくらい見せてくれたっていいだろうが。」
「ウルセェ〜。」
「けど、その封蝋・・・どこかで見覚えがあった気がするんだけどな。」
「そうなのか?」
「ああ、ところでお前も手紙を書くか?」
「届くのか?!」
「ああ、多分だけど・・・。その封蝋宛に頼めば、届くはずだぞ。」
「そ、そうなのか?」
「ああ。場所がわかっている個人宛なら、直接郵便に頼めばいいが、わからないならその大陸毎の指定店に送ればいい。サウザなら、うちとあと二箇所の場所から送る事ができるが、お前が連絡がくるって言ってたから、うちに先に郵便を持ってきてもらうよう頼んでおいたんだぞ。」
「そ。そうなのか!?」
「ああ。相手の居場所が解らない手紙は、大陸内を循環し、最終的には・・・あそこの掲示板に張り出されるようになってるんだ。 なんだ?知らないで、掲示板を見てたのか?」
「ああ。」
「掲示板に張り出されるまで、季節が一つは変わるんじゃないか?」
「そんなにか!?」
「ああ。運が良かったな。」
「運・・・。」
「ん? なんだ、そんな変な事言ったか?」
「いや・・・そうだな。運が良いのかもな。」
トネリはグラスの中身を飲み干し、手紙を持って出ていった。
「・・・マスター、ここ座っても?」
「ん?ああ、今、グラス片付けるが・・・、あんた見かけない顔だな?」
「ああ、ちょっと探し物をしててね。」
「へぇ、まぁここは貿易も栄えてるし、目当てのものが見つかるといいな。」
「そうだな。ところで、先ほどの彼は随分と嬉しそうだったが・・・」
「ん? あぁ、トネリか? そういや、あいつも探しモノが見つかったとも、言えるのかもな。」
「ほぅ? それは羨ましい。」
「本当、あいつは運が良い・・・あぁ、そうかあれはノーザの印だ。」
「・・・ノーザ?」
「ん? あぁ。さっきの奴が探してた兄弟がノーザにいるかもって話だ。今度、店にきたら教えてやるかな・・・。」
カウンターの中の男は、自分にいい聞かせるように言い、カウンターに座った男のドリンクを作り始めた。
その手元を、冷ややかな瞳で男は見つめていた。
「きっと、先ほどの彼はラッキーキャットなんでしょうね。」
「そうかもな。」
そう答えてると、男の前にドリンクを出し、次のオーダーを作り始めた。
気がついた時には、カウンターにからのグラスと代金が置かれていた。
運が良い。
その言葉は、どちらかというとフィガロのモノだった。
イースでは、差別の対象だった猫獣人。
けれど、大陸が変わればその扱いも違った。
そんな中に「ラッキーキャット」という言葉があった。
運の良い猫
どこかの転移者が広めたその言葉は、右手を挙げればお金を、左手を挙げれば人を招き。
猫獣人の奏でる音は、治癒能力を高め、ごく稀に生まれる者には魔獣が避ける。
嘘か真かも解らない事を、その時代の転移者は周りに広めた。
それらが、時代を経て「ラッキーキャット」とだけ、猫獣人達に間に残った。
残った・・・
だけなら、良かったんだよなぁ。
店から出た、トネリは胸元にしまった手紙を無意識に一撫でした。
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